日本を代表する建築家・村野藤吾さん設計による志摩観光ホテル(志摩市阿児町神明、TEL 0599-43-1211)が開業したのは1951(昭和26)年4月3日、今年60周年を迎えた同ホテルで、開業当初の建物を特別に一般公開している。
開業したその年の11月、昭和天皇が戦後の復興状況視察のため伊勢志摩まで巡幸され同ホテルに宿泊、「いろづきし さるとりいばら そよごの実 目に美しき この賢島」と賢島の美しさを詠んだ。昭和天皇は5回、今上天皇は1回(2001年)同ホテルを利用、皇室関係者や海外の要人なども数多く利用する。
現在同ホテルは、1969年に建てられた鉄筋コンクリート5階建の本館と1983年完成の宴会場のみで、志摩観光ホテル「クラシック」(客室127部屋)として営業。開業時(客室25部屋)本館として営業していた建物(のちに東館と呼称)を2007年に耐震性、老朽化などの問題から閉鎖、一時は取り壊す計画もあったが、そのまま保存。今も当時の面影を残す歴史的建築物となっている。1961年築の西館は2002年に閉鎖し取り壊した。すべて村野さんの設計。2008年10月、敷地内に全室スイートルームの志摩観光ホテル「ベイスイート」(客室50室)を新たに開業し、「クラシック」と併せて全国から客を集めている。
村野(1891~1984年)さんは、日生劇場や高島屋東京店(東京都)、世界平和記念聖堂(広島県)などの作品を残し、その年のもっとも優れた建築に対して「村野藤吾賞」を授与(村野藤吾記念会)、受賞建築家は内外から高く評価されている。公開中の旧館は、かつて村野さんが手がけた三重県鈴鹿の帝国海軍航空隊の将校集会所を移築したもので柱や梁は当時百五銀行頭取で、陶芸家としても知られていた川喜田半泥子(かわきたはんでいし)翁の山に自生する松の大木が使用されている。
「旧館には、同ホテルが舞台となった『華麗なる一族』の作者=山崎豊子さんが執筆に使用した机や、オーケストラバルコニーがある食堂、オリジナルデザインの障子、竹を使用した天井、太い松材の旧館ロビーなど見どころいっぱい」だという(同ホテル広報担当者)。本館1階ロビーには山下清や三島由紀夫などの直筆のサインが書かれた宿泊名簿も公開されている。
現在同ホテルでは、「開業60周年記念晩餐会メニュープラン」(48,750円~)を期間限定で提供中。9月30日まで。
旧館の公開時間は9時~19時。