明治から昭和にかけて京都画壇を中心に活躍した伊藤小坡(しょうは)の作品を展示する伊藤小坡美術館(伊勢市宇治浦田、TEL 0596-22-2554)で現在、新春(冬)の常設展を開催している。
伊藤小坡(本名=佐登)は、1877(明治10)年、猿田彦神社(同)宮司宇治土公貞幹の長女として生まれた日本画家。18歳で伊勢の磯部百鱗に絵の手ほどきを受け、21歳のときに京都で森川曽文に師事しその後、谷口香喬(こうきょう)に師事し「小坡」の雅号をもらう。谷口門下の伊藤鷺城(ろじょう)と結婚し、京都で創作活動をしながら3人の娘を育てる。3姉妹の母として鷺城の妻として生き抜き1968(昭和43)年満90歳でこの世を去る。1913(大正2)年に描いた「製作の前」が第9回文部省主催美術展覧会で初入選三等賞を受賞し、上村松園らと共に女性画家として一躍脚光を浴びた。1921(大正10)年第3回帝展、翌年に日仏交換美術展に出品した「琵琶記」はフランス政府買い上げとなった(現在はパリのポンピドーセンター所蔵)。歴史物語に登場する女性を題材に、女性の視点から描いた作品が多い。
同展では、源氏物語に登場する斎王の任を終え都に戻った後、入内(じゅだい)して天皇の女御になった斎宮女御(さいくうのにょうご)「秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)」に思いを寄せた「秋草と宮仕へせる女達」(1928年)や「秋好中宮図」(1929年)、「幻想」(1930年)など、1898(明治31)年から1960(昭和35)年までの計35点を展示する。
南北朝時代の南朝の説話をまとめた「吉野拾遺」の中の話を題材にした「伊賀のつぼね」(1930年)について、同館顧問の山口泰弘さんは「庭にお化けが出るといううわさを聞いた伊賀局(つぼね)がそのお化けとのやりとりをしている様子を描いた作品。お化けを描かずに、生暖かい風に立ち騒ぐ草木と揺らめく局の髪の毛の描写からただならぬ情景を想像させる」と説明する。
山口さんは「伊勢出身の伊藤小坡という日本画家の存在を知っていただければ」と話す。
開館時間9時30分~16時。月曜休館(祝日の場合は翌日休)。入館料は、一般300円、高大生 200円、小中生100円。3月15日まで。