志摩市的矢地区のカキ養殖業者らで組織する「的矢地区カキ生産性向上研究会(愛称=「500会」)」が8月4日、一般的に真冬が旬のマガキを真夏に初出荷した。
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出荷したマガキは、一年中食べることができるカキブランド「伊勢志摩プレミアムオイスター」で、人工種苗による三倍体カキを、専用ボックスに入れる「シングルシード養殖法」と、潮の干満を利用する「潮干満帯養殖法(オーストラリア方式)」で育てた。2016(平成28)年11月18日設立の「オイスターファームラフト」(志摩市磯部町、TEL 0599-57-2741)が2017(平成29)年に民間企業として日本で初めて水産庁からの認可を受けて、2018(平成30)年に試行錯誤しながら作り上げた生食をメインにしたマガキのこと。
昨年、同地区で養殖されるカキの7割がへい死し、カキ養殖業者の経営に大きな打撃を与えたが、新しい養殖法で養殖したカキは3割弱のへい死でとどまった。現状を打破するために今年4月に同地区の10業者中7業者が賛同し「500会」を立ち上げた。「500会」のネーミングは、「伊勢志摩プレミアムオイスター」だけで年間収入を500万円以上にしようとの思いを込めた。
この日は「500会」のメンバーが、同社の技術指導を受け、5月29日に4センチだったカキを中間育成し、7~8センチに成長させたマガキの初出荷式に竹内千尋志摩市長らが出席した。メンバーの寺口哲弘さんは「年間収入500万円を目指していきたいので、応援よろしくお願いします」とあいさつした。生産したマガキは鳥羽磯部漁業協同組合的矢支所(同)のカキの浄化施設で浄化した後、生食用として関東地区の飲食店や海外(香港、マカオ、ロシアなど)に出荷する予定という。
一般的なマガキは、ホタテガイの貝殻に種カキを付着させ垂下式でカキを大きく育て、ある程度成長したら1個1個を手作業で分離しカゴに入れ海水に垂下式で養殖する。水温が低くなりカキの栄養分となるグリコーゲンが蓄えられる寒い冬の産卵前に出荷するマガキに対して、人工種苗による三倍体カキは、染色体が3対ある産卵しないカキで、常にグリコーゲンなどの栄養分を豊富に蓄えるため、一年中養殖が可能なカキ。
「500会」のメンバーで同社の養殖部最高責任者兼営業部長の濱地大規さんは「自然相手のカキ養殖では、リスクがある。例えば何度も台風の襲来があると種カキやそのシーズンに出荷予定のカキのへい死率が高くなる。カキ養殖業者にとって2年分のカキが死んでしまうことになり経営的な打撃を受けることになる。一方、三倍体カキだと、種カキはいつでもできるし、いつからでも養殖を開始でき、約7~8カ月で出荷できるためリスク分散することができる。一年中カキを出荷できるということは一年中収入があるということにもなる。この暑い真夏にマガキを出荷できるということはカキだけに画期的なこと。本年度同会で5万個、当社で15万個、合計20万個の出荷を目指したい」と話す。
カゴに入れたカキをイカダにつるす「垂下式養殖法」(1928年~)や、その後のカキの出荷直前に行う「紫外線滅菌浄化法」(1955年~)は、全国のカキ養殖業者のほとんどが採用する「的矢発」。安心してカキが食べられるようにと佐藤養殖場(同)の創業者で水産学者の佐藤忠勇(ただお)(1887~1984年)さんが発明した。
竹内市長は「小ぶりでフォームが美しく、女性がシャンパンを片手におしゃれに食べることができるので大変期待する革新的なカキ。垂下式養殖や無菌カキの養殖の歴史がこの地から始まった。通年出荷できるカキの新しい歴史もこの地から作っていこう」と意気込む。
志摩市は、稚貝の購入費、カゴやイカダなどの資材購入費を対象に水産振興補助金として同会に388万5,000円を交付(事業費は849万1,500円)した。
県内では、旅館「いかだ荘 山上(さんじょう)」(志摩市磯部町、TEL 0599-57-2035)、伊勢おかげ横丁内飲食店「横丁 いかだ荘」(伊勢市宇治中之切町、TEL 0596-23-8829)などで「伊勢志摩プレミアムオイスター」を提供する。