
三重県営サンアリーナ(伊勢市朝熊町)の正面、伊勢フットボールヴィレッジの駐車場に、80年前に広島と長崎に落とされた原爆によって被爆したアオギリとクスノキの木の「被爆樹木2世」が植えられている。そのうちの一本のアオギリが8月に入り、植樹から初めて実を付けた。
伊勢志摩サミット開催時2016(平成28)年に広島・長崎両市長から手渡された被爆樹木の苗木(こんなに小さかった苗木)
アオギリは、1945(昭和20)年8月6日8時15分、爆心地から北東へ約1.3キロにあった旧広島逓信局の中庭で被爆。爆心地側の幹半分が熱線と爆風により焼けたが、焦土の中で樹皮が傷跡を包むように保護しながら成長し、現在は平和記念公園(広島市)に移植され、今もなお大きく成長を続けている。
クスノキは、同年8月9日11時2分、爆心地から南東へ約800メートルの山王神社(長崎市)境内入り口で当時樹齢500~600年といわれていた御神木。2本のクスノキの枝葉は熱線と爆風で吹き飛ばされ幹は折れて黒こげになったが、2年後、奇跡的に新芽を出しその後大きく成長、今も同神社の御神木として参拝者を見守っている。長崎出身で歌手の福山雅治さんは「クスノキ」という曲を作り故郷への思いを込めた。今年の長崎・平和祈念式典で子どもたちが「クスノキ」を合唱する。
伊勢に植えられている「被爆樹木2世」は、伊勢志摩サミットが開催された2016(平成28)年5月、松井一実広島市長からアオギリを、田上富久長崎市長(当時)からクスノキを、それぞれ贈られた2本に、市内のボランティア団体「カラス会」が2000(平成12)年7月に「被爆アオギリのねがいを広める会」(広島市)から種子を譲り受けて育てたアオギリを加えた計3本で、それぞれ被爆した木の種から育てた子(2世)に当たる。
両市長が伊勢市を訪れ直接、鈴木健一伊勢市長に手渡した「被爆樹木2世」の苗木は、核兵器のない平和な世界の実現に向けて世界中の首長に呼びかけ活動する「平和首長会議」(広島市)が2014(平成26)年から配布しいるもの。被爆に耐えて現在も生き続ける被爆樹木2世の苗木を多くの市民が訪れる場所に植樹し、平和の象徴として市民に大切に育ててもらおうと苗木の配布・育成を行っている(寒冷地には被爆イチョウの種子を配布)。「平和首長会議」への加盟都市は8月1日現在で、166カ国、8509地域・都市(うち国内1740都市)、苗木(海外へは種子)の配布は4月1日現在で、世界では21カ国127自治体4団体、国内では34都府県145都市に行き届く。
「カラス会」代表の小西蔀(しとみ)さんは「われわれが育てたアオギリは伊勢の地に種子をまくところから始めて、大きくなった2世。2013(平成25)年7月に初めて花を咲かせたが、2017(平成29)年の台風による強風で根元から折れてしまった。それでも折れた幹の脇から再び芽を出し成長したものを、2020年4月に伊勢市に寄贈し植樹。翌年の2021年6月には再び花を咲かせて驚かせてくれた。今年、伊勢志摩サミットの年に植えたアオギリが花を咲かせ、実を付けて3世の種子ができたと聞き、改めて生命力の強さに感動している。アオギリが命の大切さを、身をもって教えてくれているのだと思う。戦争のない世界、核兵器のない世界が実現することを祈る」と話す。
兵庫県宝塚市や長野県高森町、愛知県大府市などでは被爆樹木を育てようと住民と共に活動する。宝塚市は被爆アオギリ2世から取った3世の種子を育成し苗を作り、住民に無料配布。平和の種を育てる活動を積極的に行っている。