伊勢の閑静な住宅街に立つ「凹」の形をした一般住宅が、初めて見る人の目を丸くしている。
玄関からの入り口が吹き抜けになっているため室内はかなり明るい。
同住宅は、伊勢市出身の建築デザイナー・大松俊紀さんが手掛けた住宅で、昨年「第27回三重県建築賞」会長賞を受賞した。外観は「へこむ」という漢字の「凹」に似た形で、正面には黒い御影石をタイルのように張り、玄関を入ると吹き抜けを設け、「中庭」から太陽光を取り込むように設計されている。
大松さんは一級建築士で、桑沢デザイン研究所スペースデザインコース専任講師。神奈川県川崎市で大松俊紀建築都市研究室を構え、一般住宅や公共建築などを手掛ける。2002年には「別大拠点整備東屋設計競技」(国土交通省主催)で最優秀賞、2005年にはJCDデザインアワード入選(Viewing Platform)などの経歴を持つ。
大松さんは「デザイン性を重視し、正面の御影石は周りの風景を映すことを意図して設計し、さらに向かいの一段上がったところに住宅が立っているので、わざと正面には窓を付けなかった。通常は南に面した壁に大きな窓を配設するが、中庭を設け、そこに一度光を取り込んで中庭を囲んだ各スペースに光を入れるように考えた。凹のくぼんだ所はまさに光を取り込んでいる部分であり、キッチンからは向かいの緑が見える部分になる」と説明する。
さらに「中庭を囲む部屋の窓は、光を十分に室内に取り込めるように高さ2.5メートルの店舗用サッシを使用。1階は、リビング、ダイニング、キッチン、玄関、子ども部屋を配置した。そのほか、吹き抜け空間の壁一面を収納スペースにし、照明、空調などの設備導入にも工夫した。正面を全く閉じた面にし、中庭を設け、そこから室内に光を取り込む手法は、都市住宅のプロトタイプになるのでは?と意図してデザインした」と付け加える。
住宅の住人は「ご近所の方は最初不思議がっていたが、実際に部屋の中に上がってもらって、その明るさを実感すると、驚いて帰っていく(笑)。キッチンからすべての部屋に目が届くので子どもも安心して遊ばせることができるメリットもある」と感想を漏らす。