群馬大学(群馬県前橋市)大学院医学系研究科分子予防医学講師の清水宣明さんと三重県立看護大学(津市夢が丘)基礎看護学助手の片岡えりかさんが今年4月から共同で、新型インフルエンザの流行とこれからの感染制御対策についての調査・研究を、多気郡明和町の下御糸(しもみいと)地区の住民と行っている。その1回目の説明会が9月11日、住民約30人が参加して、志貴公民館(志貴)で開かれた。
インフルエンザの発症過程を表すグラフを説明する群馬大学清水先生
説明会は、多気郡明和町立下御糸小学校(内座)の児童の家庭を対象にしたアンケート結果を基に、地域全体で対策を取る必要があることをグラフやイラストを交えて説明。今回のアンケート調査が全国初のもので、インフルエンザの流行を解明する手がかりになる重要な取り組みであることも示唆した。
アンケートは、昨年10月から今年3月までに流行した新型インフルエンザの感染・発症および健康記録などを同校児童163人の家庭(対象世帯数114戸)に対して実施したもの(回答率86.0%、同校対象地区世帯数648戸)。期間中の新型インフルエンザ発症児童数85人(全校児童に対して52.1%)だった。
調査は、児童の発症数を学年クラスごとに分け、発症経過を時間軸で分析するなどした結果、定説通りに流行過程がSの字を左右に引き伸ばしたような「シグモイド・カーブ」を描くこと、学級閉鎖を実施することで一時的に発症するスピードを抑えることはできるが、その後も発症はなくならず最終的に感染を食い止めることはできないこと、などが分析結果からわかった。
説明会では、「インフルエンザは台風などと同様に自然災害であるため発生を100%食い止めることはできない」「インフルエンザが一気に流行すれば地域医療の機能がまひするため、地域全体で発生と拡大を少しでも遅らせて『時間稼ぎ』することが大切」「流行を目に見える形でとらえる『流行のダイヤグラム』を作成して今どのような状態なのかを知ることで、次のアクションプランにつなげることが効果的」などの具体的なアイデアが提案された。
清水さんは「今回の調査は、対象地域名・学校名を匿名にせず公開することを了承いただいた。地域と連携して研究する以上、地域にその成果をフィードバックし生かしていく必要がある。得られたデータを基に地域全体で感染制御対策を考え、さらに他の地域へ波及させていくきっかけを作ること。三重県立看護大学など地域の大学を利用し、地域が大学を育てていくことが大切」と前置きした後、「これまで学校などでの感染症の感染経路などについて具体的な調査・研究はされてこなかった。シグモイド・カーブのことは知っていてもその事実を証明する生のデータを見たことがなかった。実際にそうなる事実を知れば何をすべきかが見えてくる」と訴える。
「季節性インフルエンザに対するワクチン接種は一般的になったが、感染自体を防御することはできないので、感染阻止効果は実証されていない。しかし症状を和らげ、重症化を予防する効果はある。津波も地震も台風も、人間の力では発生やその力を止めることはできないが、それを畏(おそ)れ、同時に闘いながら無事にやり過ごすことはできる。『時間稼ぎ』をしてワクチンの配布を待つこと、病院の機能をパンクさせないように努力することなど『当然の』みんなの協力・共同が必要。地域のインフルエンザ対策は、地味な対策、地味な取り組み、しかも継続的な取り組みで、『大事なくてよかったね』で十分効果があったとすべきだと思う。インフルエンザが自分たちの地域でどのように流行するのか?を知り、『生のデータ』と『実感』と『理解』を大前提として、コツコツと小さな取り組み、小さな説明会を継続していくことが、大事に至らない秘訣(ひけつ)では」」とも。
清水さんと片岡さんは、今回のような説明会を繰り返し、住民意識の共有化を図り、具体的な小さな取り組みにつなげていくこと目指す。