
海苔養殖を食害から守るシステムを開発した学生チームezaki-labのメンバーと指導教員の江崎修央教授(右端)
令和7年5月9日~10日、渋谷ヒカリエホールにおいて行われた第6回高等専門学校ディープラーニングコンテスト2025(以下、「DCON2025」)本選において、鳥羽商船高等専門学校(三重県鳥羽市、校長:古山 雄一、以下「鳥羽商船高専」)情報機械システム工学科に所属する学生チームezaki-labが経済産業大臣賞および企業賞(アクセスネット賞・三菱電機エンジニアリング賞・ビズリーチ賞)を受賞しました。
高等専門学校ディープラーニングコンテストとは
高等専門学校ディープラーニングコンテストは、高専生が日ごろ培っている「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用して社会課題を解決する作品を制作し、生み出される「事業性」を企業評価額で競うものです。地域社会の課題解決に取り組む高専生ならではの発想力・技術力を生かした作品が多く、例年複数のチームが本コンテスト出場後に実際の事業創出に挑戦しています。今回開催されたコンテストは第6回で、過去最多となる95チームがエントリーし、一次審査と二次審査を経て、鳥羽商船高専を含む10チームが本選に出場しました。
これまでにない高い技術力と完成度の高いプレゼンテーションで競われた本選

経済産業大臣賞を受賞した時の様子
本選では、技術審査と学生によるプレゼンテーションが行われました。審査の結果、海苔養殖を食害から守るために開発されたシステム「めたましーど」を開発した学生チームezaki-labの企業評価額は1億5000万円でした。また、予測される経済効果や将来への期待度の高さから経済産業大臣賞を、完成度の高さと発想力の高さから企業賞(アクセスネット賞・三菱電機エンジニアリング賞・ビズリーチ賞 )を受賞しました。
地元の海苔養殖生産者と共にシステムを開発した「めたましーど」
鳥羽商船高専の学生チームezaki-labが制作・発表したのは、海苔養殖を食害から守るためのシステム「めたましーど」です。音とレーザーを活用して食害の要因になっているカモを追い払うシステムで、近年減産し続けている海苔養殖の生産量を向上させることができる転換点に寄与できると期待されています。鳥羽商船高専の在る地元の伊勢湾漁協や鳥羽磯部漁協の海苔養殖現場に通いながら、海苔養殖生産者とともにシステムを開発してきました。

伊勢湾漁協の海苔養殖生産者と意見交換する様子
「めたましーど」の事業化に向けて、connectome.design株式会社の佐藤聡氏からアドバイスをもらう
本コンテストの本選出場チームにはメンターがつき、事業化に向けた様々なアドバイスを受ける機会が与えられます。鳥羽商船高専ezaki-labのメンターを務めたのは、AIスタートアップ企業を創業したconnectome.design株式会社 代表取締役社長の佐藤聡氏でした。佐藤氏はプログラマーとして現在も活動されており、あらゆる種類のシステム開発を経験しています。システムの事業化に向けたコンサルティングを得意としており、過去にメンターを務めた学生チームは実際に起業するという事例もありました。

佐藤聡氏(左から5番目)と学生・指導教員が事業化に向けて話し合う様子
令和7年4月、佐藤氏は鳥羽商船高専を訪れ、事業化に向けて学生にアドバイスしました。佐藤氏から多くの意見をもらった学生は「単に問題解決するだけではなく、事業として成り立たせるための視点を佐藤氏から学ぶことができ、不足していた考え方を補うことができた」と話し、「資金調達や製品の生産体制構築などの具体的な段階を検討したい」と意気込みを語りました。
今後、「めたましーど」は社会実装へ
DCON2025本選を終え、鳥羽商船高専ezaki-labのリーダーを務めた情報機械システム工学科5年生北仲一登さんは、「プロジェクト開始以来、ノリの生産者の方々や漁協・水産研究所の方々とのヒアリング・現場視察を何度も重ね、現場では私たちが考える以上に深刻な問題を抱えていることが明らかとなってきて、『私たちが何とかしなければいけない』という思いが強まりました。今回の結果も、これまでご協力いただいた皆さんのお力添えがあったからこそだと感じています。ご協力いただきました皆さん、本当にありがとうございました」と話しました。
今後、「めたましーど」の実証実験を積み重ね、社会実装に向けた取り組みにステップアップしていく予定で、まずは今秋に始まる海苔養殖シーズンに向けてシステムや機器をさらにブラッシュアップさせながら準備を進めていきます。
「めたましーど」海苔養殖を食害から守る、カモ追い払いシステム

めたましーどの概要
三重県では海の豊富な栄養を活かした海苔養殖が盛んに行われています。しかし、海苔生産量は約10年で30億枚も減少し、現在では需要に対して供給が追い付いていません。海苔養殖生産量が減っている原因を探るため、鳥羽商船高専ezaki-labが開発した海洋観測機器うみログを使って観察したところ、クロダイやカモといった動物による食害が海苔養殖に影響を与えていることが分かりました。
そこで、食害要因のひとつであるカモから海苔養殖を守るため、ezaki-labは低コストながら大きな効果が見込まれる「カモ追い払いシステム」として「めたましーど」を開発しました。主な機能は、1.全方位撮影可能なパン・チルトカメラを使って撮影し、2.撮影した画像にカモが存在した場合、忌避音を発生させ、カモを対象としてレーザーを照射するというものです。ディープラーニングを活用してカモを高精度に識別することができ、人や船への誤照射はありません。また、このカモ追い払いシステム「めたましーど」は昼夜関係なく稼働させることができるため、これまで食害対策に苦労していた海苔生産者の作業負担を大幅に軽くすることができます。
今後、ezaki-labは「めたましーど」を三重県内で実証実験するとともに販路を開拓し、さらに同様の要因で海苔養殖量が減少している有明海や瀬戸内海を中心に全国展開することで、国産の海苔生産量の回復に大きく貢献したいと考えています。
受賞概要
第6回高等専門学校ディープラーニングコンテスト2025 本選
日時:令和7年5月9日~10日
場所:渋谷ヒカリエホール
出場チーム名:鳥羽商船高専 ezaki-lab
制作作品:「めたましーど」海苔養殖を食害から守る
受賞:経済産業大臣賞、企業賞(アクセスネット賞・三菱電機エンジニアリング賞・ビズリーチ賞)
鳥羽商船高等専門学校について
鳥羽商船高等専門学校は明治8年(1875年)に芝新銭座二番地に航海測量習練所として創基し、その分校として明治14年(1881年)8月20日に三重県鳥羽町に鳥羽商船黌として創立されました。日本にある5商船高専のうち最も歴史の古い商船系高等専門学校です。船員を養成する商船学科とエンジニアを養成する情報機械システム工学科の2学科で構成され、科学的思考と高度な知識・技術を習得し、地域社会から世界まで幅広く活躍できる技術者を育成しています。

左写真|鳥羽商船高等専門学校の外観(奥側)・練習船が停泊する桟橋(手前側)、右写真|令和7年3月竣工の練習船鳥羽丸四代目
【学校概要】
学校名:独立行政法人国立高等専門学校機構 鳥羽商船高等専門学校
所在地:三重県鳥羽市池上町1番1号
校長:古山 雄一
設立:1881年
学校公式ウェブサイト:
https://www.toba-cmt.ac.jp/
事業内容:高等専門学校、高等教育機関