「震災までは自分のことの祈願が多かったが、震災後他人のことを祈願する護摩木が増えました」――そう断言するのは「丹生大師(にうだいし)」として親しまれる丹生山神宮寺成就院(多気郡多気町丹生)副住職の岡本祐真(ゆうしん)さん。
岡本さんは震災後毎日、地震で亡くなった人への供養、被災者の安寧、被災地の早期復興を祈願している。毎月8のつく日(8・18・28日)に護摩をたく護摩供を行う。4月8日は震災後3回目の護摩供にあたり、冒頭の言葉は同寺院を訪れた人が護摩木に書いた願いを見た岡本さんの率直な感想だ。
境内に満開の桜が咲く同寺院は、774年光仁天皇の勅願により、「空海(弘法大師)」(774~835年)の師といわれる「勤操大徳(ごんぞうだいとく)」(754~827年)によって開山。その後813年、空海が伊勢神宮参拝の際立ち寄り、本堂に「勤操大徳創立」とあるのを見て師に縁を感じ、815年に大師堂、薬師堂、観音堂、地蔵堂、閻魔(えんま)堂、鐘楼(しょうろう)堂、不動堂の七堂を建立した。大師堂本尊である弘法大師像は、大師42歳の自画像で、境内の池に姿を映して「衆生の厄よけと未来結縁」を祈願し、自ら刻んで安置したと伝えられている。真言宗山階派の1等格寺院で、かつては「女人高野」と呼ばれていた。隣接した地に丹生神社が祭られ、神仏習合の歴史を伝えている。
岡本さんは「今回の震災発生で、人間は万能ではないこと、自然によって生かされていることをあらためて痛感した。自然のことわりを尊ばなければならない。被災者の皆さまに平安が戻り、少しでも早く被災地が復興されんことを心より願っている」と話す。
同寺院中庭にはカタクリの花が咲き、山門脇にはハート型の石が埋められている。4月21日には、柴燈護摩(さいとうごま)や火渡りなどが行われる春季会(春祭り)が開かれる。