安土桃山時代に千利休(1522年~1591年)によって確立された茶道を今に伝え継承する表千家14代家元千宗左(せんそうさ)さんによる献茶式が10月10日、伊勢神宮神楽殿で粛々と行われた。
献茶式とは、神前や仏前に抹茶をたて奉納する儀式のことをいう。献茶式では、家元が神楽殿の舞台に設けられた手前座に座り、濃茶と薄茶の2椀をたて大神様へささげた。毎年世界の平和や安寧(あんねい)を願い行われる献茶式だが、今年は東日本大震災などで犠牲になった人々への哀悼、被災した人々の生活環境の早期復興への祈りを込めたてられた。
この日は県内外から約500人の一門が集合、色とりどりに着飾った和装の女性たちが神宮の参道を歩いていた。
献茶式に合わせ、表千家の茶室「不審庵(ふしんあん)」が伊勢神宮に3カ所出現、神宮茶室も開放された。不審庵とは、「不審花開今日春(ふしんはなひらくこんにちのはる)」という禅語から取られたもので、利休が営んだ茶室の名、表千家一門全体、家元の号の意味を持つ(裏千家は「今日庵」、武者小路千家は「官休庵」)。
茶道では主人が催す茶会の主旨を明示するものを茶室の床の間に飾る。大神様にささげたものと同じ抹茶を拝服できる不審庵の床の間には、「神光照天地(じんこう てんちをてらす)」と書かれた掛け軸が掛けられていた。
拝服席の担当となった表千家三重支部の前川温子さんは「掛け軸は家元が書いたもので、神様の光が天地を照らし、人々の暮らしを明るく豊かにしてくれるように――という願いが込められているのでは」と「神光照天地」の意味を説明。「その家元の思いを受けて、このようにご奉仕させていただけることに感謝している」と話す。