遷宮で新しくなった伊勢神宮を参拝するために伊勢市を滞在していた天皇皇后両陛下が3月27日、天皇に代わって伊勢神宮に仕えた斎王(さいおう)と斎王が住んでいた斎宮(さいくう・いつきのみや)を紹介する博物館「斎宮歴史博物館」(多気郡明和町)を視察した。
天皇が即位すると未婚の皇女の中から選ばれ伊勢神宮に仕えた斎王は、飛鳥時代から南北朝時代までの約660年間に60人余りいたとの記録が残る。当時斎王は年3回、伊勢神宮内宮(ないくう)と外宮(げくう)で執り行われる三節祭(9月の神嘗祭と6月・12月の月次祭)を天皇に代わって奉仕するために斎宮から伊勢に赴いていた。
前日の26日に外宮・内宮の参拝を終えた両陛下は同日、外宮の勾玉池の畔に一昨年完成した「せんぐう館」(伊勢市豊川町)も視察した。
この日両陛下に説明した同館学芸普及課長の榎村寛之さんは「陛下は斎王についてもとてもお詳しく、大変興味深く関心を示してくださった。『斎王と神宮祭主との違いは?』などのご質問を頂いた」と話す。
これまでチュニジア大使やポーランド大使などVIPを伊勢に招き伊勢神宮と斎宮歴史博物館を必ず案内してきた音楽家で明和町の観光大使を務める長岡成貢さんは「この20数年間にたくさんの方々を神宮と斎宮にお連れした。言うまでもなく歴代斎王は神宮にとってとても重要な存在であり、また斎王がお住まいになられていた斎宮の地は神宮にとっても重要な場所。その斎王・斎宮を多くの人に知ってもらうことは、神宮を立体的に理解してもらう上でとても大切。それを知ってもらうことは伊勢に生まれ斎宮のある明和町で育った私の使命」と説明する。
長岡さんは、20年前の第61回式年遷宮の時に歴代の斎王をしのんで「斎王の舞(いつきのまい)」を作曲。現在その曲は明和町の子どもたちによって「神楽」のような舞踊となって継承されている。「斎王さま縁の地=明和町に両陛下が来られたということは、この地にとってとても意味深い感動的な出来事。それは長い間大地の下に眠っていた斎宮の地が現代に息を吹き返した歴史的な瞬間。『斎王の舞』の旋律の中で舞う、まるで斎王さまの祈りの姿そのもののような無垢(むく)で美しい子どもたちの姿を、いつの日か必ず陛下に見ていただきたい」と思いを込める。
両陛下は28日午前、日の丸を振る伊勢市民らに見送られながら伊勢を後にした。