南伊勢の旅館「とよや勘兵衛」(度会郡南伊勢町、TEL 0599-64-2038)が一昨年から販売する「ソマカツオの塩切り」が現在、注文から3カ月待ちの人気を集めている。
「ソマカツオの塩切り」は、新鮮なソウダガツオ(伊勢志摩地方では通称「ソマ(カツオ)」)を10月~12月に塩漬けしたもので、昔から同地区に伝わる郷土料理として食べられている。毎年11月(第2土曜・日曜)に行われる「礫(さざら)八幡神社」(同)の神事で天然のクエ、タイ、カツオの「塩切り」が奉納される。
複雑に入り組んだ海岸線が美しいリアス海岸の五ヶ所湾・迫間浦が一望できる高台に立つ同旅館は、創業1967(昭和42)年。父・羽根豊年さんと息子・豊樹さんの両夫婦で切り盛りしている。「ソマカツオの塩切り」を商品化するまでは、日本酒を注文する客に提供する程度のごく少量を仕込んでいただけだったというが、2012年の夏、父と息子のよくある日常の偶然が重なって商品化に至った。
豊年さんは好奇心旺盛でさまざまなことにチャレンジするタイプ。新メニューの開発にも常に積極的な一方、「魚があまり好きではない」という悩みがあり、魚料理の試食はいつも豊樹さんの担当だった。
通常仕込んだ「ソマカツオの塩切り」は春までに食べ切って無くなるが、その年は多く仕込んだこともあり夏まで残っていた(当時、同地区では春までに食べ切るという認識が通例だった)。日頃から試食に抵抗がない豊樹さんは、恐る恐る10カ月以上たっていた塩切りを食べてみた所、「ツンと喉を突くような感じでおいしくなかった」と話す。
普通ならそれであきらめて捨てる人がほとんどだが、豊樹さんは捨てないでしばらく置いておくタイプだった。夏休みということもあり宿泊客の対応で毎日忙しく、「ソマカツオの塩切り」はすっかり忘れられて1週間以上冷蔵庫の中で放置されていたという。
冷蔵庫の中の塩切りをいよいよ本気で捨てようと思った豊樹さんだったが、「父仕込みの癖」で最後にもう一度試食したのが「奇跡」を生んだ。豊樹さんは「ツンとした感覚が無くなってまろやかに熟成され、とてもおいしく感じた。『これはいける』と思った。あの時捨てていたらこの商品は生まれなかった」と振り返る。
その後、パッケージデザインや販売方法などを決め、商品を完成させると、2013年に三重県が主催する農林水産資源を発掘する「みえのお宝食材鑑定会」に応募した。すると「平成24年度 みえのお宝食材大賞」に選ばれさらに、雑誌「BRUTUS(ブルータス)」で10年続いていた人気特集「お取り寄せ」最終号(2014年3月1日号)にも掲載され「ごはんの友の部門」でグランプリを受賞。各メディアが取材・紹介し注文が殺到した。「一気に3500件以上の注文が舞い込んだ。現在3カ月以上待っていただく状態が続いているので大変申し訳なく思う」と豊樹さん。
「みえのお宝食材大賞」では「食べた瞬間、口の中に広がる強烈なうまみとチーズの様な味わい、そしてトロリとした舌触りが特徴的で、味の完成度はとても高い」と評価する。豊樹さんは「熱々のご飯の上に載せてお茶漬けにしてもおいしい」とも。
価格は1袋(14切れ入り)500円。注文は、ファックスかメールで受け付ける。現在、日本橋にある三重県が運営する物産館「三重テラス」(東京都中央区)でも数量限定で販売している。