太平洋を見下ろす眺めの良い恵比寿ヶ丘(志摩市浜島町)に鎮座する巨大えびす像の鼻が、今年も何者かによってもぎとられた。
同えびす像は1934(昭和9)年に奉納されたもので、高さ約2メートル、左手に赤いタイを抱え右手に釣り針の付いた釣りざおを持っている。宇気比(うけひ)神社(同)境内にある恵比寿神社の隣で南の太平洋を向き、まさに「えびす顔」をしている。
大漁満足や家内安全、商売繁昌、世界の平和などを願って海に向かって「ワッハッハ」と初笑いする「初恵比寿大祭」が今年も1月20日に執り行われた。鼻がもぎ取られたのはその翌日の21日。
同神社の横山比乃宮司によると、同祭のあったその日の夕方17時ごろには、えびす像の鼻の先が爪か何かで欠いた形跡を確認する。翌朝6時ごろには、完全に鼻の先がもぎ取られて無くなっていたという。
横山宮司は「初恵比寿大祭は、海運安全や大漁、人々の幸せなど世の中が良くなることを願って毎年行っている。1人で笑うよりもみんなで笑うことで、みんなが笑って暮らせる世の中にしていきたいという思いが込められている」と説明する。
えびす像の鼻を誰よりも先に取ることで、競争相手を抜きんでる(ハナを取る)ことができると験(げん)を担ぎ、いつの日か「深夜に誰にも見つからないでえびすさんの鼻を取れば大漁になる(好転する)」と言い伝えられるようになった。漁業が盛んだったころ、漁師が験を担いで誰よりも先に魚のたくさんいる場所に行って大漁できるようにと、えびす像の鼻を取ったことが始まりとされる。毎年同祭の前に新しく鼻を付け替えても翌朝には鼻が欠けて無くなることから「鼻かけ恵比寿」と呼ばれるようになった。
横山宮司は「えびすさんの鼻を持っていくという行為は、例えば大学に合格したいとか、大漁したいとか…その人の強い意思の現れだと思うので、どんな思いで深夜に取りに来るかを想像すれば、その人の願いがかなえられるようにと心から願うばかり」と話す。