志摩の水産加工会社「まるいち」(志摩市志摩町、TEL 0599-85-2112)が一昨年から製造する「純くんのさんまの煮付け カレー風味」(500円)が静かな人気を呼んでいる。
明治末期の創業という老舗の同社。社長の山本博保さんは「創業は猪野久之助さん。私が缶詰の製造を始めたのは中学卒業後。当時はオイルサーディンの缶詰を作って米国に輸出していた。それからサザエやトコブシの缶詰も作るようになり、それぞれのサイズに合わせて(識別できるように)L、M、Sと英語で刻印した木箱に缶詰を梱包(こんぽう)していた」と振り返る。
やがて外国向けから国内向けに商品ラインアップをシフト。昭和期はサザエの缶詰が中心で、サザエを煮て殻から身を外しワタを取りサイズをそろえて缶の中に詰める仕事は、地元女性のパート業務だったが、当時はそのワタが畑の作物の肥料になるため、労働と引き換えにワタをあげるだけでも人が来てくれた時代だったという。
人件費が掛かるようになってからは、サザエの缶詰は非効率でワタや殻などの処分も困るため生産を終了。その後は「トコブシの缶詰」(現在の価格=1,750円)オンリーに。地元で取れたトコブシしか使わないことをモットーにしているため、漁がなければ缶詰にしない。そのため完成する缶詰の量は、毎年需要よりも供給が追いつかず、地元顧客だけの注文で完売し、同缶詰は「知る人ぞ知る商品」となっている。
トコブシの缶詰を製造するのは、海女漁が行われる3月1日から9月14日までの延べ100日弱。トコブシの缶詰を製造しない時にできる商品はないかと検討していた時、山本さんの次女・田澤由香さんの夫・純さんが北海道茅部郡鹿部町出身だったことから、北海道から仕入れる脂の乗ったサンマを使うことを思い立ち、試行錯誤の末、カレー風味の同商品が完成した。
頭と内蔵を取り除いた2尾のサンマを半分に切って入れ、ネーミングには「純くんの」と田澤純さんの名前を冠にした。「当初は、そのまま食べて酒のさかなにと思っていたが、サンマをパスタやサラダに入れたりする客も多く、リピートも徐々に増え評判がいい」と山本さん。「サンマの缶詰が売れれば、娘夫婦たちも、ほかに仕事に行かなくても済むようになる」と期待を寄せる。
同商品の購入は山本さんまで。