三重大学(津市)大学院生物資源学研究科・海洋微生物学教育研究分野准教授の田中礼士さんが次世代のバイオ燃料生成などに有効と思われる新種の細菌をアワビの消化管の中から世界で初めて発見したと10月30日、同大で行われた記者会見で発表した。
【その他の画像】電子顕微鏡で撮影した新種の細菌「Formosa haliotis」
研究は三重大学、京都大学、早稲田大学、ベルギー・ゲント大学の4大学による共同研究で、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)プロジェクト「藻類完全利用のための生物工学技術の集約」(2011年~2016年度)、文部科学省「頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラム」(2014年~2015年)の一環。
田中さんは海藻を好んで食べるアワビに注目し、2009年から人間でいう腸の役割をするアワビの消化管の中の細菌を調査し、約1000株(種類)のライブラリを作成していた(360株については調査済み、アワビはメガイアワビ)。
今回の共同研究は、次世代エネルギーとして注目されている海藻に含まれる糖類を利用し発酵させて、エタノールやバイオプラスティックを生産する試み。海藻を完全分解(崩壊)させる「スーパー微生物」を探すことが田中さんに課せられたミッションだった。
田中さんは、そのライブラリを1株ずつ調査した結果、海藻を分解させる微生物を唯一1株発見した。これまでの既知の細菌と大きく性状や分子系統が異なることから、国際微生物学会および国際微生物分類委員会(英国)が発行する科学雑誌「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」に発表し、9月8日発行の同誌に掲載され、新種として公開された。
新種の細菌はバクテリアに属し、形状は、長さ約3マイクロメートル、幅約0.6マイクロメートルの楕円(だえん)形。美しいアワビを意味する「Formosa haliotis(フォルモサ属 ハリオティス種)」と命名。褐藻類のセルロースやヘミセルロース、アルギン酸、マンニトールを分解させる能力に優れている。これまで海藻体を分解させるバクテリアは、海藻の病気などから見つかった4種が報告されていたが、海藻を食べる動物から発見されたのは世界初。
田中さんは「タンパク質しか含有していないマリンブロスの培地による環境下で、この細菌は海藻の糖類のみならずタンパク質も分解利用して増殖、24時間で細胞の数を10の9乗まで容易に増殖するスーパー微生物。マリンブロスを使い簡便に安定的に増殖するので工業用としても優れた細菌といえる。トウモロコシやサトウキビなどからバイオエタノールやバイオプラスチックを生成する際、現状では糖化させるために酸やアルカリを加える化学処理が必要だが、この細菌を使えば常温で糖化から発酵まですべてを微生物が行うためコストの削減につながる可能性がある。そのほか化成品製造の基幹物質とされるピルビン酸およびコハク酸の生産にも期待できる」と話す。
田中さんは「伊勢志摩地域をはじめ日本の海には多くの海藻が生息している。海藻は養殖時の資源量が非常に大きく熱帯雨林に匹敵する生産性があることから、日本の膨大な海洋面積の有効利用にもつながる可能性がある。今回は特許を取らず世界に公開し、多くの研究者やベンチャー企業の方々に使っていただき、新たな可能性を探っていただければ」とも。
「Formosa haliotis」の株は「製品評価技術基盤機構(NBRC)」(東京都渋谷区)を通して提供する予定。