多気郡明和町立下御糸(しもみいと)小学校(内座)とその地域住民らが今季から取り組んでいるインフルエンザ対策に注目が集まっている。
クラス全員が3日間マスクを着用する多気郡明和町立下御糸小学校の児童たち
群馬大学(群馬県前橋市)大学院医学系研究科分子予防医学講師の清水宣明さんと三重県立看護大学(津市夢が丘)基礎看護学助手の片岡えりかさんが、昨年4月から共同で同地域をモデルケースに「新型インフルエンザの流行とこれからの感染制御対策について」の調査・研究を行っている。感染経路やその後の状況などを把握するため、全校児童に対して実施したアンケートや実名を公表した調査・研究、地域とともに実践している活動は全国初となる。
同取り組みは、予防医学の観点から地域全体でインフルエンザと向き合うことの重要性を意識付けするために、これまで同小学校の児童や地域住民らとともに、インフルエンザについての説明会や勉強会を開催してきた。インフルエンザの流行期に入ったこの時期、本格的な「実践」が始まったことになる。
清水さんは「『うつらない』『うつさない』を常に意識させることが肝心で、今現在学校での感染者がどれくらいいるのか?を先生や児童らがだれでもわかるように、今季からインフルエンザに感染し欠席した児童をダイヤグラム化し、可能な限り情報共有しわかりやすく可視化している。インフルエンザは『どんどん変化する見えない敵』。学校全体、地域全体で取り組み、情報共有しダイヤグラム化などしていくことで、『見えない敵』が見えてくる。『敵』が見えてくればさらに先生や児童、地域の意識が高まってくる」と話す。
同校の鈴木俊道校長は「インフルエンザにかかることはどうしても仕方ないことで、みんなが加害者、被害者になる可能性があることを再認識した上で、誰が一番先にかかったかを追求しないよう、もしかかってしまった場合でも責めないこと、イーブンであることを児童はもちろん保護者にも納得していただいた。その上でルール化し、新たなインフルエンザ対策に取り組んでいる」と話す。今季から導入したルールとして具体的には、「クラスで1人以上の感染者が出た場合、『警戒レベル2』を発動しそのクラス全員に対して3日間のマスク着用を義務付けた。感染した児童の状況把握をより詳しく知るために健康調査票を配り記入してもらっている。家族の誰かが感染した場合でも報告してもらうようにしている」と説明する。
全校児童149人の同校の1月26日までの状況は、1月14日に5年生1人が感染し、休み明けの17日にもう1人が感染。その後20日に4年生が1人、21日に2年生が1人感染。さらに休み明けの24日に一度に2年生3人、4年生3人、5年生1人が感染し、25日に2年生1人、3年生1人が感染し欠席したため学校医と相談した上、2年生を学年閉鎖した。
今回の取り組みで昨年との変化を養護担当の東裕子教諭は「子どもたちは自ら、せきエチケットを心掛けるようになった。調子が悪そうだったり、顔が赤くなって元気がなさそうだったりする友達に対して『保健室にいったら?』と、優しく人に対しても気を配れるようになった。先日ある母親からは『(自分の)子どもがインフルエンザにかかってしまってごめんなさいね』と言われ、その時、これまでと比べみんなの意識が変化したことを明確に感じた」と感想を漏らした。
清水さんは「最終的には(インフルエンザの)流行に特効薬はないので感染は避けられない。終わってみれば大禍なかったという考え方がベスト」と説く。「インフルエンザは、人間として避けて通れない『差別』や『区別』を現実で学ぶよい機会。だれもが『うつす立場』とともに『うつされる立場』になる。それらと向き合い、一つひとつの事例をみんなで話し合い、相手をどのように考え、思いやり、守ることができるかを真剣に考えることが大切」と示唆する。