真珠養殖盛んな英虞湾に浮かぶ賢島と本土を結ぶ賢島大橋(志摩市阿児町神明)の中央に1月29日、大きな太陽が沈んだ。橋の間に夕日が沈む絶好のタイミングを見計らって地元アマチュアカメラマンが偶然集まった。
「今日は赤く染まりそうだと思ったのでやってきたら、朝と同じメンバーがまた集まったな(笑)」と談笑しながら撮影するのは、鳥羽市在住の岡村廣治さんと志摩市在住の堀松比佐さんと泊正徳さん。
3人はこの日の朝も、伊勢志摩から見える富士山や海から昇る朝日を撮影しようと鳥羽市相差(おうさつ)の港で、申し合わせるわけでもなくバッタリと出会っているという。それぞれ地元で働き、現在はリタイアし趣味のカメラを通して、たくさんの人に伊勢志摩の魅力を再認識してもらうきっかけになればと風景や祭りなど伝統行事を作品展やブログ、最近ではツイッターなどで紹介する。
同撮影ポイントから賢島大橋を中央にしてカメラのファインダーをのぞくと、山崎豊子さん原作の「華麗なる一族」の舞台にもなった志摩観光ホテル(同)が左、英虞湾の波静かな海面とそこに浮かぶ真珠イカダが手前、ユネスコ世界遺産となった「熊野古道」のある山々が橋の奥に配置される。
17時ごろ西の空が赤く染まり始め「舞台」が整うと、主役の太陽が賢島大橋の間にゆっくりと沈んでいく。ホテルのチェックインを控える客を乗せたバスが時折橋の上を交差する。偶然その景色に出くわしUターンする乗用車、橋の上から夕日を撮影しようとする人々、すべてがキャストになり、風景の一部を演出する。
「人が3人太陽の中に入った」「あの雲早く動いてくれないかな」「バスの窓越しに見える夕日がまた美しい」「あっ!鳥が横切った。もう少しで太陽の中に入ったのに…」などと楽しい会話を交えながら1度しか巡り合えないその場の瞬間を、一喜一憂しながらシャッターを押す。
賢島大橋からの夕景は、同市内の「西山慕情ヶ丘」(阿児町)「磯笛峠展望台」「目戸山海岸」(浜島町)から見た夕景と共に「日本の夕陽百選」(日本列島夕陽と朝日の郷づくり協会)に選ばれている。そのほかにも「登茂山(ともやま)」(大王町)から見た夕景も人気が高い。一昨年10月には「第7回全国夕陽サミットin志摩」が開催され、太平洋から昇る朝日だけでなく夕日の美しさも再認識した。
志摩市は1月28日、伊勢神宮内宮と同市内を結ぶ直行バス「御食(みけ)つ国・志摩号」を土曜・日曜を中心に2月5日から3月28日までの期間運行すると発表した。予約制で料金は片道大人500円、小学生250円。昨年の年間参拝者が860万人を超え人気スポットとなっている伊勢神宮から参拝者らを同市内に呼び込み、滞在型観光の促進を図ろうとするもの。宿泊施設のチェックインタイムに合わせた運行で賢島駅に15時と17時30分に到着する。
「賢島大橋の真ん中に太陽を入れて撮影できる期間はあと1週間くらいはある」と堀さん。日が沈み帰り支度をしているところに1隻の漁船が橋の下に現れた。「もう少し早く来てくれたら(波紋がきれいに撮れたのに)…」と笑顔で悔しがる岡村さん。
泊さんは「伊勢神宮内宮鳥居から出る冬至の朝日や二見夫婦岩の間から出る冬至の満月、夏至の朝日など、そのほかにも伊勢志摩には隠れた美しい風景がたくさん眠っている。その時その場所でしか見ることができない『奇跡』に遭遇した時、『撮らせていただいてありがとうございます』とその目の前の自然に感謝の気持ちを添えてシャッターを押すことが大切」とアドバイスする。「新しく運行されるバスに乗れば、英虞湾の夕日を撮影する時間にも間に合って、ちょうどいい」とも。