鳥羽水族館(鳥羽市鳥羽)の人気者だったオスのジュゴン「じゅんいち」が2月10日8時25分、同水族館の職員たちに惜しまれながら息を引き取った。今年で入館31年、長期飼育世界記録11,475日目だった。推定年齢33歳。
「じゅんいち」の入館は1979年9月11日。当時、消化機能の未発達による栄養状態悪化のため、生命が危ぶまれたことも何度もあったがその度に飼育係の必死の看病により危機を脱し、その後順調に成長し現在に至っていた。1987年入館のメスの「セレナ」との世界初の赤ちゃん誕生にも期待されていたが10日朝、巡回中の職員が「じゅんいち」の異変に気づき、急きょ治療用プールに移し獣医による心臓マッサージなどを行ったが、手当てのかいなく死亡した。今年1月中旬ごろからエサを食べる量が減り、体調は芳しくなかったという。
長年、ジュゴンの飼育に関わってきた浅野四郎副館長は「『じゅんいち』に出会って31年以上。これまで長期飼育記録を更新してきたが、本日死亡に到ったことは非常に寂しく残念。『じゅんいち』の飼育から得られた結果は、メスのジュゴン『セレナ』の初期飼育に生かされ、結果としてフィリピンでのジュゴン保護意識を高めることになった。また『じゅんいち』の長期にわたる飼育はそれまで未知の動物といわれたジュゴンが多くの人に知られるきっかけになった」と話す。
同水族館では今後、解剖、組織検査を行い死因を特定し、今後のジュゴンの飼育や研究に役立てていく。11日からジュゴンの水槽前に「じゅんいち」の写真と献花台を設置する。
海牛目ジュゴン科のジュゴンは、太平洋とインド洋の北緯30度から南緯30度の範囲の熱帯から亜熱帯の浅い海域に生息するアマモなどの海草を食べる温和な動物。生息数はオーストラリアが最も多く、日本の奄美大島が分布の北限とされる。レッドデータブック「絶滅危惧種」、特別天然記念物に指定されている。地球環境や平和の象徴として紹介されることも多く、米海兵隊基地代替施設建設案で揺れる沖縄県名護市辺野古・大浦湾、キャンプ・シュワブ沖合に2007年6月、親子のジュゴンが現れ話題になった。日本では同水族館でしか見ることができない。