アマテラスがスサノオの悪事に怒り、天の岩戸に引きこもって国中が真っ暗闇になるという神話・岩戸伝説に登場する「天の岩戸(あまのいわと)」(志摩市磯部町)の参道入り口で、威風堂々と枝木を伸ばす樹齢350年以上の一本桜「岩戸桜」に今年も桜の花が枝いっぱいに付いた。4月3日現在では三分咲き。
岩戸桜は、江戸中期に書かれた当時の観光ガイドブック「伊勢参宮名所図会」(1797年)巻五に「家建(やたて)の茶屋」として桜の挿絵が描かれ紹介されている。同地は志摩から伊勢神宮への旧街道で、江戸初期にはこの地に根を下ろし、春の参道を行き交う人々の目を楽しませていたのではと考えられる。品種はオオシマザクラで、緑の若葉を伴いながら白い花をつける。
岩戸桜の背景には神宮の山が、周囲には無農薬で稲作を行う稲田武久さんの水田がある。稲田さんは、満開の桜をより美しく見てもらえるようにと鑑賞に来る人たちのために、毎年岩戸桜の前の一枚の水田にだけ水を張り、周囲の草をきれいに刈る。朝日の光が差す無風の早朝、水面が鏡のように美しく反射する。
4月8日には、岩戸桜の前で恵利原早餅つき保存会(同)による早餅つきと、名水百選(1985年)にも選ばれる「天の岩戸」から湧き出る名水を使用してたてる抹茶の振る舞い「桜と餅と名水を楽しむ会」も行われる。早餅つきは11時、12時、13時、14時の計4回を予定。
同保存会の谷崎豊さんは「昨年は花が咲いていなかったが、今年8日は満開の桜の下で早餅つきができるのでは。桜の花びら舞う景色を見ながらお餅と抹茶を楽しんでほしい」と話す。