三重県水産研究所(志摩市浜島町)は10月25日、世界で初めて人工種苗による伊勢エビに小型超音波センサーを取り付け自然環境下での伊勢エビの行動調査を始めた。
同研究所は1988(昭和63)年、世界で初めて伊勢エビの人工ふ化に成功。以来三重県の魚に指定されている伊勢エビの研究を続けている。昨年8月、体長約10センチの人工種苗伊勢エビ25匹を世界で初めて海の中に放流し、その内の1匹を同11月に放流した場所近くで捕獲、約3カ月で体長約13センチまで成長し、自然界でも人工種苗の伊勢エビが餌を取り生育することを確認した。
同研究所は、本年度から動物の行動生態学に詳しい京都大学フィールド科学教育研究センターの荒井修亮教授と共同研究を行っている。今回の放流は、昨年7月に天然の伊勢エビの卵から育てた、体長8~10センチ、体重30~40グラムに成長した6匹の伊勢エビの背中に、約5×12ミリメートルの発信器(カナダ製)をシリコン樹脂で取れないように固定。水深約5メートルの海底にダイバーが潜って放流した。
発信器は、30秒ごとに信号を送る機能があり、バッテリーは約75日間持続するという。放流地点を中心に半径約100メートルの海中に受信機6個を設置。発信器の信号は最大で約150メートルの距離まで届く。1カ月後に受信機を回収し、受信機に蓄積された情報から計算し、個体ごとの行動範囲や移動速度、密集度など伊勢エビの行動を調査する。
同研究所沿岸資源増殖研究課課長の土橋靖史さんは「今回の調査で、夜行性の伊勢エビの行動が昼と夜とでどれだけ差があるかなど、どのように生活しているのかを把握したい。天敵であるタコに襲われ発信器が異常な動きをするかもしれないし、そのまま食べられた後は発信器の付いた殻だけが海底に残るかもしれない…。より詳しく伊勢エビの行動を知ることで今後、効率の良い漁場整備や漁礁開発につなげていければ」と期待を込める。