「丹生大師(にうだいし)さん」と親しまれる丹生山神宮寺成就院(多気郡多気町丹生)の県下唯一・木造建築の回廊が10月22日~23日未明、台風21号による大雨の影響で山から流れてきた大水によって基礎部分が流され完全に崩壊した。
外敵防護の施設だったとも伝えられる回廊は、「護摩堂」から階段を上った山の上にある「大師堂」まで通じる屋根のある通路で雨の日でもぬれずに移動することができた。参拝者にも自由に開放し、隠れたスポットとしても人気が高かった施設。同寺院には江戸時代の創建と伝わる。
かつては女人禁制の高野山に対して、女子の参拝が許された「女人高野」と呼ばれていた同寺院は、774年光仁天皇の勅願により、弘法大師・空海の師ともいわれる「勤操大徳(ごんぞうだいとく)」(754~827年)によって開山。その後813年、空海が伊勢神宮参拝の際に立ち寄り815年に「大師堂」「薬師堂」など七堂を建立した。大師堂本尊である弘法大師像は、大師42歳の自画像で、自ら刻んで安置したと伝えられている。真言宗山階派の1等格寺院。同寺院の顔でもある山門の「仁王門」は1722~1723年に建立されたとされる。
台風で雨風が激しかった22日から23日の様子を住職の岡本祐範さんは「崩壊した時に大きな音はなかった(気付かなかった)。おそらく石段に滝のような大水が流れ込んでいたのでその水の力によって回廊の基礎部分が流され一気に崩壊してしまったのでは」と肩を落とす。
岡本住職の妹の中野和子さんは「回廊が崩壊したと聞き、松阪から駆け付けたが、見て驚いた。土砂や回廊の瓦や柱、大きなモミジの木が折れ、庭にあった池の中にすべて流され、ぼうぜんとした。イトトンボやカタクリの群生など珍しい動植物が見られたので、それが見られなくなるのかと思うと、ショックで辛い。二次災害が起こらないように安全を優先せざるを得ないので、どうしようもない」話す。
一方、毎年2月に「春季厄除大会式」を行う十一面観音立像を祭る丹生山近長谷寺(同町長谷)の建物には大きな被害はなかったが、寺院に行く途中にある丸い田んぼでコメを栽培する日本で3カ所の1つに指定される「長谷の車田」は土石流の中に埋まった。住民は自発的に撤去作業を行っていたが、現在も復旧の目処はたっていない。