平均年齢65歳、パソコンの起動方法、マウスの使い方さえ知らなかった旅館や飲食店などで働くおかみたちがパソコンを習い、インターネットを通じて自分たちの活動を能動的に情報発信するまでに至るエピソードをつづった書籍「伊勢志摩のパソコン女将」(静岡学術出版)が11月30日から、ネット書店のアマゾンなどで販売されている。
2012年12月12日12時12分12秒に「伊勢志摩のパソコン女将」出版報告会
執筆したのは、南伊勢町に住む同会顧問の前田千恵子さん。前田さんは、「まちづくり活動を行うNPOやどうやって情報発信していいか悩んでいる組織、パソコン操作で苦労している人たちに、あきらめなければ夢叶うことをおかみたちの努力を通して伝えたい」と自費を投じて出版した。
おかみたちは、「手こねずし」や「おんこずし」など志摩市の郷土料理の研究・普及や食を通して地域の輪を広げようと2003年に発足した「志摩いそぶえ会」のメンバー。発足後すぐ、地域に伝わる郷土料理の調査を行い、その料理方法などをまとめた小冊子「きらりレシピ」を2005年3月に3万部発行した(2008年1月に2万部増刷。その後2008年3月に海藻料理を集めた「海藻レシピ」2万部を発行する)。
同会の伊藤泰子会長は「『きらりレシピ』が多くのメディアで取り上げられ、あっという間に部数が底を突いてしまった。3万部発行の経費捻出も大変だったのに、これ以上発行することは困難。パソコンができれば、インターネットで全国の人に無料で見てもらえるのに──と強い願望を持っていたところに、前田先生と出会わせていただいた」と当時を振り返る。
前田さんがボランティアでパソコン教室を開き、おかみたちを猛特訓。前田さんは「開講した日は、マウスをモニターに押さえつける人もいたほど(笑)」と暴露する。「おかみたちは、それぞれが料理法の文章をタイピングしホームページにアップしたり、ブログで日記を書いたり、日々上達していった。今ではフェイスブックで全国の人と友達になり交流の輪を広げる人も多くいる」と話す。
書籍では、おかみたちのパソコン教室の様子やエピソード、ネット版のレシピ集を公開するまで、同会のホームページがきっかけで物事が好転し、おかみたちも戸惑うような出会いや出来事などの実話を紹介する。前田さんは「嘘のような本当の話ですが、2010年に農林水産省の『食と地域の『絆』づくり』で先駆的優良事例として志摩いそぶえ会の活動が認定された。その選定証の授与式では首相官邸に招待され、時の菅直人総理大臣から表彰を受けるまでに至った。あの時みんなが、パソコンのキーボード操作にくじけなかったから叶った事実」と断定する。
価格は945円。書籍に関する問い合せは同会ホームページから