直線距離で200キロ以上離れた日本最高峰・標高3776メートルの富士山の頂上(サミット)部分が11月27日の早朝、伊勢志摩から見ると水平線の上に浮き上がったように観測できた。来年5月26日・27日には志摩市で主要国首脳会議「伊勢志摩サミット」が開催される。
海の上に浮き上がったように見える「宙に浮く富士山」を観測できるエリアは、日本全国の中でも鳥羽市と志摩市の東寄りの海岸だけ。時期は寒くなる冬場だけで、暖かい時期は反対にくっきりと裾野まで観測できる。
「宙に浮く富士山」は、海水と水面近くの空気との温度差によって光が屈折して起こる「蜃気楼(しんきろう)」の一種「浮島現象」。志摩半島は富士山から200~230キロ離れているが、大気による浮き上がり現象によって、海岸から山頂まで見える唯一の場所。標高0メートルで富士山を見ることができる最遠が伊勢志摩。さらに志摩半島は、沖を通る暖流の黒潮によって、冬場は海水温と気温の差が大きくなるため、浮島現象が起こりやすい。
伊勢志摩から観測できる富士山は、1707(宝永4)年の噴火でできた標高2693メートルの宝永山までが見えることから、標高2300メートル以上の頭の部分が全て海の上に浮いているように見える。三重県側の伊勢湾沿岸からも見える富士山だが、手前に高い山があると水平線の上からは見ることはできない。
机上の計算では、海面0メートル地点から富士山を観測するには山など障害物がない視界があれば半径約223キロまで観測可能。実際には大気中の光の屈折があるため、その約1.06 倍となる約236キロ離れた地点からが最遠になる。
この日撮影に成功したのは、伊勢志摩経済新聞のカメラマンで志摩市阿児町在住の泊正徳さん。泊さんは「5時20分ごろから撮影を開始、5時50分ごろくっきりと富士山のシルエットが現れた。今シーズンに入って数回富士山は確認できているが、『宙に浮く富士』の観測は今シーズン初。冬の到来を感じる。来年5月の『伊勢志摩サミット』に最もふさわしい象徴的な富士山に、サミットの成功を祈願した」と話す。