「木の上に産んだモリアオガエルの卵を池の下でアカハライモリが口を開けて待っている。かわいそうに思うが、それこそが自然の摂理。生物の多様性がわかりやすく観察できる」と話すのは5月20日に、モリアオガエルの卵を発見した二見町在住の北井誠也さん。
両生綱、無尾目、アオガエル科、アオガエル属に属するモリアオガエルは、一般的に青森県から山口県にかけての山地帯に分布する。産卵は外敵から守るために、池沼やため池、用水などの静水域の水面上に垂れ下がる木の枝や葉に、乳白色の泡状でできた直径10~20センチほどの大きさの卵塊(らんかい)を作り、300~500の卵を産み付ける。約2週間でふ化し、泡の中で幼生(オタマジャクシ)に生育。雨などの影響を受けて水面に落下してそのまま成体(カエル)になるまで水中生活を送る。成体になると山に移動し陸上で生活する。産卵時期は地方により多少のずれがあるが、4月下旬~7月上旬。
卵塊は、南伊勢町伊勢路の県道719号伊勢路伊勢線沿いにある池の上に垂れ下がる木の枝(低い所で水面から約50センチ、高い所で2メートル)に約7カ所。「モリアオガエルの卵だとすぐにわかった」と話す北井さんは、毎年この時期に三重県の天然記念物に指定されている「池ノ谷のモリアオガエル繁殖池」(多気郡大台町)に観察に行くため、生態に詳しい。
池所有者のナンセイ養鶏(同)社長の萩原真郎さんは「初めてモリアオガエルのことを聞き、当初何のことかよくわからなかったが、珍しい生態を持つカエルだということを知り驚いている。何の因果かわからないが『たまご屋の池に卵』を産んでくれたのだから大切に見守りたい」と笑顔で話す。
1998年ごろに南伊勢町でモリアオガエルの卵を発見したという、同地区の自然に詳しく絶滅寸前のササユリの植樹活動などを行っている根本正人さんは「トンボやチョウも少なくなっている。もういなくなったとあきらめていたが、(モリアオガエルの卵が)発見されてうれしい」と感想を漏らす。
萩原さんによると、同池は道路沿いにあり車から捨てられるゴミが多く、先日清掃活動を行ったばかり。「モリアオガエルの卵が見つかったのだから、ゴミを捨てる人がいなくなってくれれば」と訴える。
「モリアオガエルの生育環境にはきれいな池があり、その水面上に枝葉が垂れ下がり、カエルになってから餌に困らない環境があること。そして広大な森林がその池の背後にあること。しかし日本の各地で今、草木が除去され、池が埋められ、水が汚染され、森林が伐採されている。産卵場所と生活場所を遮断する自動車道路も問題。人間が自然環境を壊し、多くの生物が犠牲になっている」と北井さん。
「そんな人間が壊している環境の中でも生物たちは力強く生き抜き、アカハライモリは虎視眈々(たんたん)とモリアオガエルの卵が落ちるのを待ち構えている。そんなことを考えるのに象徴的な場所」と語りかける。