今年1月上旬ごろから現在まで、鳥羽市一帯の汽水域にボラの若魚・イナの大群が遡上(そじょう)している。住民は玉網(タモ)ですくったり、釣りをしたりしながら、「春の訪れ」を楽しんでいる。
昨年は、3月ごろから2カ月以上にわたり伊勢の勢田川に10万匹以上のイナが沸き、真っ黒く染まったグロテスクな川が話題を集めた。今年は鳥羽湾に流れる加茂川や妙慶川でもイナの遡上を観測。中でも小浜町の狭い水路には行き場を失ったイナが大群をなして泳いでいる。上流に行けば行くほど狭くなる水路にどんどん泳いでいくイナを、いとも簡単にトンビやウが捕獲に成功している。
地元の住民やそのうわさを聞きつけた釣り人らは、釣り糸をたれ一匹一匹ずつ釣っていた。大きな玉網を持ち出し、わずか5分ほどで100匹以上を捕獲するつわものも。大きな玉網と大きなかごを用意し現れた長靴を履いた4人組は、水路に降りるとイナの大群めがけて玉網を入れ、一挙に10匹以上のイナが捕れた。男性は「面白い、面白い」と笑みを浮かべながら少年の顔になっていた。
イナは地方によって異なるが、オボコ、イナ、ボラ、トドなどと成長する度に呼び名が変化する出世魚。「おぼこい」や「いなせ」「とどのつまり」などの語源となっている。鳥羽とボラの関係は昔から数多く残る。海にせり出して建てられた鳥羽藩の築城「鳥羽城」は光に敏感なボラが逃げないように、海側を黒色、山側を白色に塗ったため二色城「錦城」といわれていた。1885(明治18)年の冬、浦村でボラ80万匹が捕れた際、20万匹が売れ残りそうになった。真珠王・御木本幸吉が機転を利かせ東京まで運び売りさばいたエピソードが残る。