伊勢志摩から富士山まで直線距離で200キロ以上離れているにもかかわらず7月16日の日の出前、水平線の上にクッキリと笠(かさ)をかぶった富士山が見えた。
撮影したのは志摩市阿児町在住で元教員の向井正明さん。海岸近くに住む向井さんは4時30分くらいからカメラを用意し構えていた。写真は4時52分に撮影した富士山と山頂にできた「笠雲(傘雲)」。「笠富士(傘富士)」とも言う。
「富士山が笠をかぶると近いうちに雨が降る」と昔からいわれ、「笠雲」など富士山にかかる雲の形状など自然現象から、天気を予測する「観天望気(かんてんぼうき)」の代表例としても知られる。
向井さんが撮影したポイントからは約204キロ離れる富士山。200キロ以上離れた場所からの富士山は、冬場の早朝の空気が澄み切った晴天時で富士山との間に雲がないなど、全ての条件をクリアした時にだけ出現する。梅雨明けしていない曇りがちなこの季節や気温が高い夏場は水蒸気が発生するため観測できる確率は非常に低い。
この日は、梅雨の合間の晴天で朝の気温が比較的低く、空気が澄んでいたことなど好条件が整った。前日の15日にも富士山を観測することができ、梅雨期に2日連続観測は非常に珍しい。通常は朝日が出る前にきれいに見えるが、この日は太陽が出た後も8時ごろまで確認できた。
向井さんは「昨日久しぶりに富士山が見えたので、今日も見えるかと期待して確認したら、目視でも裾野までくっきり見えて、さらに笠雲がかかっていた。いつもは朝日が出ると消えてしまうが、今日はくっきり見え続けていた。先の見えないコロナ禍や大雨続きの中で、『いつかは晴れる日が来る』と富士山が励ましてくれているような気がした。梅雨明けも近いのかも」と話す。