伊勢神宮の神さまに供える米を育てる「神宮神田」(伊勢市楠部町)で9月2日、稲を刈り取る「抜穂祭(ぬいぼさい)」が執り行われた。
作付面積約3ヘクタールの神田は21枚に区画され、伊勢神宮を流れる五十鈴川の水をかんがい用水にして取り入れ、うるち米やもち米を栽培する。神宮の祭典で使う米のほか、餅や酒の原料用など、十数種の米を育てている。神宮神田の総面積は約10ヘクタール。
この日は、台風11号の影響を心配したが、早朝降った雨は止み、吹く風は爽やかで青空と太陽の下、滞りなく祭典が行われた。
祭場では、斎服をまとった久邇朝尊(くにあさたか)大宮司ら神職と礼服を着た地元楠部町の住民ら約60人が見守る中、黄色の装束を着た神宮技師・山口剛作長(さくちょう)の指示で作丁(さくてい)2人が神職より授けられた忌鎌(いみがま)と呼ぶ鎌を持ち、黄金色に染まる神田に入り稲を刈り取り、刈り取った稲を10人の作丁がその場で稲穂だけを一本ずつ丁寧に抜き取り、麻緒(麻のひも)で2つに束ねて「抜穂」を作った。
神宮神田では、約1カ月をかけ全ての稲を刈り取り、数日間乾燥させ、約240俵を収穫する予定だという。10月15日から始まる「神嘗祭(かんなめさい)」で初めて神さまに新米をささげる。また「抜穂」は同祭のものとは別に258束が作られ、内宮(ないくう)の「御稲御倉(みしねのみくら)」に150束、外宮(げくう)の「忌火屋殿(いみびやでん)」に108束を納め、三節祭(神嘗祭、6月と12月の月次祭)にそれぞれ内宮は50束ずつ、外宮は36束ずつ取り出されて神饌(しんせん)として供える。
日本神話「天孫降臨(てんそんこうりん)」には、アマテラスから子孫のニニギに託した「三大神勅(しんちょく)」(「天壌無窮(てんじょうむきゅう)」「宝鏡奉斎(ほうきょうほうさい)」「斎庭稲穂(ゆにわのいなほ)」)が日本書紀に記されている。伊勢神宮では「三大神勅」を尊び、「吾(あ)が高天原(たかまがはら)にきこしめす斎庭の稲穂をもて、また吾が児(みこ)にまかせまつるべし」と稲作・米作りの大切さを伝えた「斎庭稲穂」の神勅を守り、稲作を継承する。神宮で執り行われるほとんど全ての祭典が、五穀豊穣(ほうじょう)への祈りに通じている。