三重ブランド第1号に認定されているブランドカキ「的矢かき」の出荷が10月20日、一斉に始まった。旅館「いかだ荘 山上(さんじょう)」(志摩市磯部町、TEL 0599-57-2035)でも同日、的矢かきフルコースメニューの提供が始まった。
的矢かきは、佐藤養殖場(同)の創業者で水産学者の佐藤忠勇(ただお)(1887~1984年)さんが、「おいしいカキを安心して食べられるように」と的矢湾で研究を重ね発明した養殖カキ。今ではカキ養殖には当たり前となっている、カゴに入れたカキを筏(いかだ)につるす「垂下式養殖法」(1928年~)、紫外線で殺菌した海水に浸けたカキを約20時間飼育して殺菌する「紫外線滅菌浄化法」(1955年~)などの活用はこの的矢湾のカキ養殖の研究から始まったもの。
的矢湾は、5500ヘクタールに及ぶ広大な伊勢神宮の宮域林から流れる水を集めた神路川、池田川、野川の3本の河川が直接流れ込み、カキ養殖には最適な環境。通常2~3年掛かって出荷するカキが1年で出荷することができるため人気も高い。
佐藤養殖場で育てた的矢かきを専門に提供する同館は、間もなく60周年を迎える。先々代の井坂博さんと佐藤忠勇さんが友人だったことから「これからグルメブームが来る」と佐藤さんのアドバイスを受けて1957(昭和32)年5月3日創業したが、1959(昭和34)年9月の伊勢湾台風、1960(昭和35)年5月の南米チリ地震で発生した津波による2度の災害を受け、海岸近くにあった当時の宿は壊滅的な被害を受けた。開業当時は苦労が絶えなかったという。的矢湾が一望できる高台に立つ現在の建物は、1989年に新築したもの。
同館の3代目・井坂泰さんは「佐藤先生のいう通りグルメブームが来た。旅行会社が昼食に的矢かきのフルコースを提供する企画を販売したところブレーク。僕が小学生の頃、忙しくてカキが無くなり佐藤養殖場まで自転車をこいで取りに行った経験は今でも忘れない。佐藤先生はカキフライが好きで、うちでカキフライを食べて『やっぱり的矢かきはうまいな!』といってまた研究室にこもる姿が印象的だった」と話す。
同館人気の「的矢かきフルコースメニュー」は、Aコース11品(7,000円)とBコース9品(6,000円)。Aコースには、生ガキ3個、焼きカキ2個、カキフライ3個、土手鍋などカキ約30個がつく。「好きな人は一人で生カキ(1個380円)を10~20個追加する人もいる。生カキを握る『カキずし(1貫800円)』の新メニューも人気が高い」と井坂さん。
今年のカキ養殖の状況について、佐藤養殖場社長の佐藤文彦さんは「今年は死んだカキが少ないのでとてもいいと思う。多くの人に元祖的矢かきを食べてもらいたい」と話す。
同館の営業時間は、11時~13時30分、17時30分~19時(要予約)。的矢かきの出荷、フルコースメニューの提供は来年3月いっぱいまで続く。