伊勢神宮の専用水田「神宮神田(しんでん)」(伊勢市楠部町)で5月12日、早苗を植え始める「神田御田植初(しんでんおたうえはじめ)」が行われた。
伊勢神宮で行われる祭りの中で神饌(しんせん)として奉納され、また神饌の中の酒などの原料として使用する米を栽培する同地は、約10ヘクタールの面積の内の約3ヘクタールの水田でうるち米ともち米を栽培している。
鎌倉時代から行われていたとされる神田御田植初。3束の早苗を山口剛作長が水田に投げ入れると、2人の奉仕員がその早苗を3列植えた。その後、地元楠部町の「神宮神田御田植祭保存会」のメンバーが笛や太鼓の調べを聞きながら、子持帷子(かたびら)に烏帽子(えぼし)、黄色のたすき姿の男性と菅笠(すげがさ)に白衣、赤いたすきをかけた女性が、裸足になり交互に並び早苗を丁寧に手で植え始める。
早苗を植え終わると、手に竹扇を持った男10人が東西に整列し、「ヤア」と掛け声を掛け合いながらイナゴを払う動作を行う。水田の中では大黒と恵比寿の絵が描かれた大団扇(ごんばうちわ)を持った2人が団扇合わせを行いながら3回まわり、豊作を祈った。
早苗がきれいに植えられた水田には、早速トンボがタマゴを産むために何度も水面に尾を垂れ、またセキレイのつがいが水田の上空を飛び回り、時折水面に降りては水を飲むしぐさを見せていた。
場所を伊勢神宮摂社「大土御祖神社(おおつちみおやじんじゃ)」(同)に移動すると、「はえや、はえ、はえや、はえ」と掛け声をかけながら豊作を祈る「豊年踊り」が行われた。最初の「はえ」には「生える・早く大きくなれ」、後ろの「はえ」には「栄える」という願いが込められているという。踊りが終わると大団扇を破る「団扇破り」が行われ、参列者らがうちわの紙片を取ろうと群がった。
種を蒔き苗を育てる最初の祭典「神田下種祭(しんでんげしゅさい)」が4月に行われてから、5月の「神田御田植初」が終わると、稲穂が実り9月に刈り取る「抜穂祭(ぬいぼさい)」まで豊作を祈る。6月24日には、伊勢神宮別宮「伊雑宮(いざわのみや・いぞうぐう)」(志摩市磯部町)で「御田植祭(おみた・おたうえさい)」が行われる。