鳥羽水族館(鳥羽市鳥羽)で飼育展示する謎の深海生物「ダイオウグソクムシ」が10月13日、展示水槽の中で飼育員の目を逃れて「ひそかに」脱皮を行っていた。
同館では現在、No.12(飼育開始=2013年7月19日)、No.14(同=2013年7月19日)、No.23(同=2014年5月30日)、No.28(同=2016月10月8日)の雄4匹と、No.24(同=2015年8月21日)の雌1匹、計5匹のダイオウグソクムシを飼育展示する。
国内のこれまでのダイオウグソクムシ脱皮事例は、同館のNo.5の2016(平成28)年2月12日が第1号で国内初事例、2016(平成28)年9月14日夜から15日にかけて脱皮したNo.13が国内2例目、2018(平成30)年6月14日に新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)の個体が脱皮したのが3例目。今回のNo.23の脱皮は国内4例目となる。海外では1996(平成8)年に米オハイオ州の水族館で飼育していた個体が脱皮した記録が残っている。同館によると、いずれの個体も体の後半部分の殻を脱いだ後間もなくへい死しているといい、飼育下で完全脱皮した事例は、世界でもまだ確認されていないため、実現すれば世界初の快挙になるという。
No.23は9月1日、同館飼育員の森滝丈也さんにより外皮の前半部分が白くなっているのを確認されていた。過去2例を参考に、No.23の脱皮タイミングを予測していたが、期待を裏切り1カ月以上長くかかった。No.23はメキシコ湾の水深約800メートルの海底で採取され、2014(平成26)年5月30日計測の脱皮前体長は、約31センチ、体重1004グラム。
森滝さんは「前日の台風19号による対策で忙しくしていたこともあり、動画撮影などしていなかったのが残念。13日6時50分ごろ、出勤し水槽を見るときれいに殻を脱いだNo.23の姿があった。No.5の時は脱皮の途中で確認しそれから7時間近くかかっていた。No.13は殻が癒着していてきれいに脱げなかったため少し手伝った。これまで2例の経験から、すぐには脱皮しないと思っていたので少し油断したが、きれいに脱いでスッポンポンとなっているので、前半部分の脱皮にも期待できる」と話す。
「生態について何も分からなかったダイオウグソクムシだが、その謎が少しずつ分かってきた。今回の脱皮でも個体の第2腹肢に、脱皮前には無かった交尾針(生殖器)ができているので、脱皮して性成熟に達した(大人になった)と考えられる。脱皮の前日に少し動きが活発になり、4対の足で支えて前のめりになって踏ん張っている様子も確認できたので、今考えれば、その様子が脱皮の兆候の一つである可能性が高い」とも。
森滝さんは「悲願は前半部の脱皮を成功させる完全脱皮とその長期飼育。前半部分の脱皮時にはどんな兆候が現れるのか、期間はどれくらい掛かるのか、どんな行動を取るのか、新しく脱皮した部分の茶色がどれくらいの期間で変色するのかなどを観察して、エビデンスを積み上げていきたい。しばらくは半分脱皮したダイオウグソクムシのレアな姿を見ることができるので、この機会にぜひ鳥羽水族館まで足を運んでいただければ」と呼び掛ける。
ダンゴムシやフナムシの仲間で、成長すると20~45センチの大きさになるというダイオウグソクムシは、現在確認されているワラジムシ目の中で世界最大種。エビやカニと同様、腹部にある腹肢を上下させ海中を動き回る。節足動物門甲殻綱等脚目スナホリムシ科。メキシコ湾や西大西洋周辺の水深200~1000メートルの海底に生息し、7対の脚、尾部にとげを持ち、堅い甲は外敵から身を守るためのものであると考えられている。堆積するごみや落ちてくる魚の死骸などを食べる「海の掃除屋」の異名を持つが、詳しい生態はまだよく分かっていない。