横山ビジターセンター(志摩市阿児町、TEL 0599-44-0567)で現在、志摩市阿児町安乗(あのり)地区に400年以上の歴史を持つ人形浄瑠璃「安乗文楽」の写真展が開催されている。
【その他の画像】横山ビジターセンターで写真展「安乗の人形芝居~港町に木偶(でく)が舞う~」
リアス海岸の美しい英虞湾が一望できる横山展望台を管理する同センター。環境省が整備する全国の国立公園内にある34カ所の内の一つで、伊勢志摩国立公園の魅力を発信する施設。標高203メートルの横山にある横山展望台などが「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」1つ星を獲得、一昨年8月に展望台をリニューアルし、同時に「横山天空カフェテラス」がオープン、晴れた日には大勢の観光客でにぎわっている。
同展は、毎年9月15日・16日に安乗神社(志摩市阿児町安乗)の秋の例大祭に合わせて奉納される「安乗文楽」が、新型コロナウイルスの影響を受けて公演中止になったことを受け、同センターが「せめて写真展を開催し多くの人に安乗文楽のことを知ってもらいたい」と急きょ企画した。
織田信長や豊臣秀吉に仕えた水軍武将・九鬼嘉隆は、1592(文禄元)年の文禄の役で出兵した際、鳥羽城を出て安乗沖にさしかかった時に逆風が吹き、ニワの浜(同)へ上陸し避難した。一行は、八幡宮(今の安乗神社)に海上安全と戦の勝利を祈願すると、朝鮮での合戦に勝利した。同年8月15日にお礼参りに再び来村し、村人が「人形芝居を毎年行えるようにしてほしい」と願い出たことから安乗文楽が始まったとされる。
同地は風待ち港として栄え、大阪、阿波、淡路などの影響を受け、人形芝居の技術が伝わり江戸時代から明治の初めころに最盛期を迎えたが、明治20年代ごろから寄港する船が激減し、1925(大正14)年の上演を最後に1949(昭和24)年まで中絶した。その後、大阪文楽座の吉田文五郎一座が来村し神社の舞台で人形芝居を上演・奉納したことから復活の機運が盛り上がり、1951(昭和26)年に「安乗人形芝居保存会」を発足。さらに1978(昭和53)年に後継者育成を目的に旧安乗中学校に「文楽クラブ」が結成され、今日まで継承された。中学校の統合により「文楽クラブ」の活動が危ぶまれたが、2018(平成30)年に東海中学校に「郷土芸能クラブ」が再結成され活動を開始した。1952(昭和27)年、三重県指定の無形文化財、1980(昭和55)年国の重要無形民俗文化財の指定を受けた。2008(平成20)年に「人形浄瑠璃文楽」がユネスコ無形文化遺産に指定された。
写真展は「安乗の人形芝居~港町に木偶(でく)が舞う~」と題し、志摩市在住の写真家・泊正徳さんがこれまで撮りためセレクトした約40点の内の21点を展示する。
同センター展示担当者の崎川由美子さんは「伊勢志摩は、横山展望台に代表されるような美しい自然を愛(め)でる場所が多く、それを目的に訪れる観光客も多いが、400年以上続く安乗文楽のような伝統文化も発達し、今も各地で継承されている。コロナ禍で、今年の安乗文楽の公演が中止となってしまった。中絶を乗り越え今日まで何世代にも渡って続けられている安乗文楽を、気持ちだけでも継承したい。そう思い、写真で伝えることができないかと泊さんに相談したところ快諾していただき写真展が実現した。気軽に立ち寄っていただければ」と話す。
同センター営業時間は9時~16時30分。10月4日まで。