絶滅寸前で人間の祖先ともいわれる「ナメクジウオ」が、真珠養殖盛んな「英虞湾」の湾口部で見つかった。
三重県・英虞湾で見つかった絶滅寸前で人間の祖先ともいわれる「ナメクジウオ」の拡大写真
豊かな沿岸域「里海」の再生に取り組む志摩市が11月19日、英虞湾の「健康度」を判定するための基準作りやそのために必要な生き物の調査を三重大学生物資源学部海洋生態学研究室の協力で実施。その結果、英虞湾の湾口部において「ナメクジウオ」3個体を発見した。調査は環境省里海創生支援モデル事業「英虞湾生き物調査隊事業」の一環として行ったもの。
ナメクジウオは熱帯から温帯の海域に広くに生息し、世界で30種類ほどが確認されている。かつては日本でも沿岸各地に生息していたが、環境の変化に弱く、現在はその生息が危ぶまれている。体は細長く半透明で、両端は尖(とが)り、左右に扁平(へんぺい)、後端には三角形の膜状に広がる尾びれがある。潮間帯下部から水深75メートルまでの透水性が高く有機物の少ない粗い砂底を好んで生息する。砂底に潜り口だけを出し一時的に水中に泳ぎでるが永続的ではなく定在的な生活を送る。
脊索(せきさく)器官を持つことから、ヒトなど脊椎(せきつい)動物の祖先と考えられ、昨年京都大、国立遺伝学研究所や英米などの国際研究チームが「ナメクジウオは脊椎動物の祖先に最も近い生き物である」という研究結果を発表し、英科学誌「ネイチャー」(2008年6月19日付け)に掲載され話題になった。
今回の調査を行った三重大学産学官連携研究員の木村昭一さんは「ナメクジウオ以外にも希少な貝類などが確認された。英虞湾は長い間真珠養殖漁場として活用され、また伊勢志摩国立公園に指定されたことから乱開発が行われなかったことや、複雑な海底地形や陸上からの淡水の流入により、非常に豊かな生物多様性が残されている可能性が示された」と説明する。
志摩市では、今後市民とともに英虞湾の生物多様性に関する調査を実施し、豊かな里海の保全を目指していく予定。