伊勢神宮の専用の水田「神宮神田」(伊勢市楠部町)で9月7日、稲を刈り取る「抜穂祭(ぬいぼさい)」が執り行われた。
今年4月の「神田下種祭(しんでんげしゅさい)」で種を蒔いて育てた稲が穂を垂れて大きく実った。この日は1粒の籾(もみ)が万倍に実り稲穂になることから転じて、ものごとを始めるのに吉日とされる「一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)」でもあった。
神宮神田の総面積は約10ヘクタール、神田の作付面積は約3ヘクタール。祭典用水田の面積約862平方メートル。神田には神宮の祭典で使う新米のほか餅や酒の原料用として、うるち米やもち米を作付けする。
日本神話「天孫降臨」で、高天原で行っていた稲作をアマテラスから子孫のニニギに託したことをルーツに、伊勢神宮では「稲作・米作り」を尊び、五穀豊穣(ほうじょう)への祈りを日々行っている。神宮で執り行われるほとんど全ての祭典がこの稲作に通じている。
この日は、台風15号の影響で早朝から雨が降り天気が心配されたが、始まる寸前ににわか雨があったが、次第に好転し青空や太陽も顔を出し、祭典は滞りなく行われた。
祭場では、小松揮世久(きよひさ)大宮司ら神職と楠部町の住民らが見守る中、黄色の装束をまとった神宮技師・山口剛作長(さくちょう)の指示で作丁(さくてい)2人が神職より授けられた忌鎌(いみがま)と呼ぶ鎌を持ち神田に入り、黄金色の稲を刈り取った。刈り取った稲を10人の作丁がその場で稲穂だけを一本ずつ丁寧に抜き取り、麻緒(麻のひも)で2つに束ねて「抜穂」を作った。
神宮神田では、約1カ月をかけ全ての稲を刈り取り、数日間乾燥させ、内宮(ないくう)の「御稲御倉(みしねのみくら)」に150束、外宮(げくう)の「忌火屋殿(いみびやでん)」に108束を納め、10月15日から始まる「神嘗祭」で初めて神さまに新米をささげる。