2022年秋に全国公開を予定している、伊勢志摩が舞台の映画「法定相続人」(仮称)のシナリオハンティングが6月30日、1カ月を迎えた。
平成27年度文化庁芸術祭優秀賞受賞のNHK連続ドラマ「洞窟おじさん」(2015年)の脚本を手掛けた伊勢市出身の脚本家・児島秀樹さんと、映画「利休にたずねよ」(2013年)、「サクラサク」(2014年)、「海難1890」(2015年)などの監督を務めた田中光敏さんがタッグを組み、伊勢志摩を元気にしようと活動する東友章さんら5人の地元プロデューサーと共に現在、映画制作に取り組んでいる。
映画は、伊勢志摩の基幹産業でもある真珠養殖業を営む一家にまつわる物語。世界の大富豪が6億円の値をつけた伝説の真珠を隠し持つ父親に認知症の疑いが現れ、先妻の子=長女と次女、後妻の子=三女の3人娘が伝説の真珠を巡りさまざまな問題に直面する。「人の幸せの在り方」について問い掛ける笑いあり涙ありの社会派コメディー。
伊勢志摩でのシナリオハンティングは、新型コロナウイルス感染拡大防止による自粛が解かれた6月1日から始まった。前半は英虞湾を中心に真珠養殖業について、事実検証などをメインに、ヘリコプター2機に乗り空から視察したり、船に乗り英虞湾に浮かぶ離島に上陸し調査を行ったり、真珠養殖工場で核入れ作業を行う真珠養殖業者に話を聞いたりしながら構想を練り上げているという。シナリオハンティングと並行して、鈴木英敬三重県知事、竹内千尋志摩市長、鈴木健一伊勢市長、中村欣一郎鳥羽市長、小山巧南伊勢町長を表敬訪問し、地域全体の盛り上がりの必要性を訴えるなどもした。
6月29日からは、伊勢神宮に仕えた斎王(さいおう)が住んでいたとされる幻の宮殿「斎宮(さいくう)」などがある明和町を視察、同30日は世古口哲哉明和町長を表敬訪問した。その後、みちひらきの神を祭る「猿田彦神社」(伊勢市宇治浦田)と芸能の神を祭る「さるめ神社」(同)の参拝を行った。同30日は、「夏越(なごし)の大祓(おおはらえ)」とも呼ばれる「水無月大祓式」が猿田彦神社で行われ、田中さんと児島さんは新型コロナ感染拡大の早期終息と映画完成を祈願した。
7月1日は、5時30分に起床し伊勢神宮外宮(げくう)を地元有識者と朔日(ついたち)参りに。志摩観光ホテル(志摩市阿児町)を視察後、志摩市商工会(志摩市阿児町)、伊勢商工会議所(伊勢市岩渕)、鳥羽商工会議所(鳥羽市大明東町)を訪問し、会頭らに映画の説明と協力を呼び掛けた。
田中さんは「何より素晴らしいのはシナリオハンティングで出会った人たちの『ハート=情熱』、地元を愛する思いの強さに感銘を受けた。(出会った人の)こんなキャラクターの人を映画の中に登場させたいと思い、登場人物のキャラクター作りの参考にもなった。風景が美しいのはもちろん、自然と向き合っている人々の姿がとても素晴らしいと感じた」とほほ笑む。
「シナリオハンティングしているところから、どんどん情報公開し発表することは、映画界にとってはとても異例なこと。ロケハンしている場所というのは、プロデューサーにとって本来は、公開までシークレットにしておきたいものだが、プロデューサーが地元の人で、地元のいいところをどんどん発信したいという思いや映画を通して多くの人を呼び込み地域を元気にしたいという思いが強く、それなら、映画を作っているところから情報発信していこうというスタンスに方針を変えた。今までの映画作りとは違い、『映画作りがまちづくり』なんだということを実践しながら映画を作っていこうと思っている」と話す。
東さんは「世界に通用する映画を作りたいと思い、シナリオをとても重視している。コロナ禍の大変なこの時期にあえて映画を作ることを発表させていただいた。コロナで疲弊しているこの地域を、三重県を、日本を、映画の力で元気にしたい。映画制作の始まりから終わりまでを情報公開し、多くの人に感心を持ってもらいみんなで一緒に映画を作っていきたいと思う。伊勢志摩オールロケでお金もロケ地に落ちる仕組みを作り、映画が地域を元気にし、必ずまちづくりにつながることを証明したい」と思いを込める。