「岩戸の塩」の製塩所が9月1日、神前(こうざき)海岸近くに新築移転し「岩戸の塩工房」(伊勢市二見町松下、TEL 0596-65-7980)としてオープンした。
二見浦での製塩の歴史は長く、諸国を旅した倭姫命に佐見都日女命が「堅塩」を献上したのが始まりとされ、現在は伊勢神宮内宮摂社の「御塩殿神社」(荘)が受け継ぎ、伊勢神宮の祭典などで使う「御塩」を作る。
「岩戸の塩」は、伊勢市の百木良太さんが手作りする塩。二見興玉神社の参道沿いに立つ旅館「塩結びの宿 岩戸館」(茶屋)のおかみで良太さんの母・百木智恵子さんが1996(平成8)年ごろ、体調を崩した家族の体質改善のために塩作りを始めた。塩専売制度が廃止された1997(平成9)年には、旅館の敷地内に塩釜を設置し天然塩の製塩・販売を開始。天然の海水を原料に固結防止のための添加物を使用しない純国産の自然塩で、。良太さんが塩作りを始めたのは15年前になる。
岩戸の塩は、大潮前後の満ち潮に合わせてくんだ海水を鉄製の登り窯に入れ、まきの火で15時間から20時間かけて煮詰めて結晶化させ、にがりをそのまま焼き込んで完成させる。使用するまきの重さは1日当たり200キロから300キロ。海水は1トン以上を使い、1日あたり重さ約25キロの塩に製塩する。
移転に伴い製塩所は「岩戸の塩工房」の社名で法人化。良太さんが社長に就任した。良太さんは「今年8月まで古い登り釜で塩作りをしていたが、釜は老朽化が著しく、いつ壊れてもおかしくない状態だった。2基設置した新しい釜をならしながら、少しずつ新施設での作業に移行しようと思っていたが、受注した8月分の塩を作り終わったら釜が完全に壊れて使えなくなった」と打ち明ける。
良太さんは「コロナ禍でさまざまな問題も発生し、移転計画は思い通りにいかなかった。水道を引き込むと経費がかかるため井戸を掘ったが50メートルの深さまで掘っても水量を確保できなかった。悩んだ挙句、病床の父の力を借りようと祈り、100メートルまで掘り進めることを決意。78メートルの地点で水の層に達して問題は解決した。父のおかげだと確信した。昨年12月23日、移転をずっと気にかけてくれていた父・万博(かずひろ)が他界した」と話す。「移転前の製塩所では、軽トラで、海水は10往復して、まきは5往復して、それぞれ運んでいたが、新たな製塩所は海に近く、塩作りに専念できる。塩の量り売りやイベント開催も計画している。これまで通り岩戸館での販売も継続していく」とも。
価格は、「岩戸の塩」小(125グラム)=820円、大(376グラム)=2,400円、「本にがり」小(60ミリリットル)=1,000円、大(400ミリリットル)=5,000円。 同店と岩戸館限定販売「岩戸の塩」(50グラム入り)=380円。
営業時間は9時~17時。日曜定休。