南伊勢町の田曽白浜の砂浜に6月15日、クボタの農耕用トラクターが突如現れ、砂浜を端から端まで耕し始めた。
太平洋に面し天然の白砂のビーチが美しい田曽白浜は、約600メートルの海岸線を持ち、かつては海水浴場として栄えた時期もあったが、国道260号線のバイパスの完成と共に誰も訪れないビーチになっていた。宮崎あおいさんや向井理さんが出演する映画「きいろいゾウ」(2013年)や稲垣吾郎さん主演の映画「半世界」(2019年)などのロケ地にもなった。
管理する人がいなくなった田曽白浜の美しい砂浜にはゴミや海藻など漂流物が年々たまり、周辺も荒廃していたところを、ヘリコプターによる航空運送業などを展開する「日本ヘリシスHD」(津市雲出鋼管町)の稲田竜太社長らが、2年前からカフェや宿泊施設などを展開し、スカイダイビングやビーチスポーツなどのアクティビティを充実させ、地域再生に乗り出した。昨年、伊勢志摩一帯の観光業を活性化させようと「伊勢志摩観光開発」(度会郡南伊勢町田曽浦)を設立し、同社が田曽白浜の美化活動にも力を注ぐ。
農耕用トラクターは、クボタの25馬力4輪駆動式のトラクター「KL25」に、土をかき混ぜ耕すためのロータリー「RL15K」をけん引した機械で、砂浜でもスタック(タイヤが砂浜にはまって動けない状態になる)することなく縦横無尽に動き回っている。
稲田社長は「初めて田曽白浜に来た時は、すごいゴミと海藻の山で清掃作業も苦労した。大きなゴミを重機で運び、手作業でかき集めてきれいにしたが、台風が来る度に漂流物だらけになって、また一から掃除をしないといけない状況が何度も繰り返された。なんとか効率良くできる方法はないかと考えていた時に、農耕用のトラクターの活用をひらめいた」と打ち明ける。
「大きな流木やプラスチックゴミは人海戦術で取り除き、海藻などはそのままトラクターで砂の中に埋めてしまうと自然に分解されてきれいになる。海藻の処理にも時間がかかっていたがトラクターの活用で1時間位できれいになるようになった。ウミガメの産卵場所になる可能性もあるが毎日ビーチをチェックしているのでその心配は要らない。自然環境にも配慮しながら作業をしている」と稲田社長。
クボタ(大阪府大阪市)の広報担当者は「農耕用のトラクターをビーチクリーン用に活用している事例は把握していない」と驚いた様子で話す。
稲田社長は「今シーズンから、プラスチックゴミなどの清掃活動をしてくれる人に、併設のカフェでソフトドリンクを1杯無料にさせていただきたいと思っている。当社が南伊勢町指定のゴミ袋を購入し、清掃活動に協力してくれる人にそのゴミ袋を1人に付き1袋手渡し、袋いっぱいにしてもらえれば。その後、ドリンクを飲んでくつろいでいただければ」とほほ笑む。