風景や歴史、文化、風土、人物など「地域の匂い」を物語にした「地域主役型映画」を一堂に集めた映画祭「賢島映画祭」が9月10日、「賢島宝生苑(ほうじょうえん)」(志摩市阿児町)で開催され、佐賀県唐津市を舞台にした作品「せせらぎ荘」がグランプリに選ばれた。
2016(平成28)年から同映画祭を主催する「志摩ムービークルーズ」(志摩市大王町)。船越中学校(同)の閉校を題材にした映画「校歌の卒業式」(2013年)の製作に携わったことをきっかけに、「映画の製作を通して地域を巻き込み、地域が元気になっていく様を、実際に見て感じ、地域主役型映画をもっと普及させよう」と2014(平成26)年に地元有志12人が設立した。
「主役クラスのキャストが最低1人、その地域の人であること」「本編が30分以上であること」などの応募条件を設け、映画としての技術的な完成度よりも、撮影した地域・人々をどれだけ魅力的に映しているか、どれだけ地域を巻き込んでいるかなどを審査する。
伊勢志摩で撮影された10月6日公開の作品「親のお金は誰のもの 法定相続人」監督の田中光敏さんが審査員長を、編集技師の川島章正さん、スクリプターの松澤一美さん、プロデューサーの東友章さん、志摩ムービークルーズ会長の橋爪吉生さんが審査委員を務める。今回で9回を数える。
この日は、応募のあった作品の中から事前審査を経て選ばれた6作品を上映。ノミネート作品は愛知県豊田市が舞台の「光る校庭」(比嘉一志監督)、東京周辺や河口湖が舞台の「メモリードア」(加藤悦生監督)、香川県高松市や石川県かほく市が舞台の「にびさびの巣」(岡田深監督)、千葉県山武市や神奈川県が舞台の「そして目醒める」(池田剛監督)、兵庫県相生市が舞台の「あの日の伝言」(遠藤健一監督)、佐賀県唐津市が舞台の「せせらぎ荘」(高山凱監督)。
受賞作品は、グランプリ賞=「せせらぎ荘」、準グランプリ賞=「光る校庭」、特別賞=「メモリードア」。各賞は、主演女優賞=辻しのぶさん(メモリードア)、主演男優賞=石田卓也さん(あの日の伝言)、助演女優賞=AYAKAさん(せせらぎ荘)、助演男優賞=広瀬慎一さん(せせらぎ荘)。
田中審査委員長は「審査員の意見は割れてグランプリを決めるのに苦労した。素晴らしい作品ばかりで、もっと賞を出せたらと思った。自分も映画製作に関わる一人として、心を引きしめて作品に向き合わなければならないと初心に返らせてもらった。とても楽しい一日だった」と評価した。
グランプリを受賞した「せせらぎ荘」は、失業した男性、小説家志望の青年、失敗を恐れて挑戦しない女子高校生の3人の、それぞれ異なる時代を過ごした人生を描きながら、互いの人生が交錯しながらストーリーが展開する。高山監督が脚本も書き、小説家志望の青年も演じている。
高山監督は「早稲田大学在学中の2019年に映画製作チーム『From.H』を立ち上げ、昨年10月に同名で法人化し起業した。東京生まれだが、唐津市にある早稲田佐賀中学校・高校に6年間在籍し過ごしたので、唐津は第二の故郷。『せせらぎ荘』は、大学1年生の冬に企画立案、2年生の時に脚本制作、3年生の夏に撮影するもコロナ禍で延期に。3年生の冬に再撮影し、22歳になった4年生の夏に仮完成に至った」と説明する。
高山監督は「主な出演者20人にエキストラを合わせて出演者は約50人、撮影スタッフはほぼ全員が学生。佐賀県の人も200人以上が協力してくれた。製作費は約500万円。移動や宿泊の費用が発生した後、コロナ禍で撮影できなかったことが一番苦労した。費用面も含めて、そこから再度撮るまでには多くの人の力を借りて成し遂げることができた。『映画で佐賀を盛り上げる』を掲げていたので、とにかくそれを達成する思いの下、まい進した3年間の大学生活だった。グランプリの受賞は初めてなので、とてもうれしい」と話す。